りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧

2018 My Best Books

今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみました。 長編小説部門(海外) 悪童日記(アゴタ・クリストフ) 国境の街で戦時を生きびた双子の少年を描いた、30年以上前に刊行された作品ですが、今読んでも感動的です。著者の自伝的な体験に隠さ…

2018/12 みかづき(森絵都)

『真夜中の子供たち(サルマン・ラシュディ)』が世界的に高い評価を得ている理由は、読めばわかります。祖国インドへの報われない愛情が、奇想の中からひしひしと伝わってくる強烈な作品でした。 社会派SFの巨匠であるニール・スティーヴンスンの新作の骨…

神の代理人(塩野七生)

「神の代理人」とはカトリック世界を代表するローマ法王のこと。ルネサンス期を代表する4人の法王の事績や人格について論評した、著者初期の「歴史エッセイ」です。ローマ法王が世俗の権力である「法王国家の元首」だった時代には、さまざまな出来事が起こ…

真夜中の子供たち(サルマン・ラシュディ)

2002年にはノルウェー・ブック・クラブが発表した「世界最高の100冊」に選ばれ、2008年には英国歴代の「ベスト・オブ・ブッカー賞」にも選ばれた名著です。なぜ本書の評価がそれほどまでに高いのか、読んでみて納得できました。 1947年8月1…

お天気屋のお鈴さん(堀川アサコ)

前巻の『おせっかい屋のお鈴さん』で永年の恨みは解消したはずなのに、江戸時代のワガママお嬢様の幽霊・お鈴さんの活躍はまだまだ続きます。仙台の信用金庫に勤める平凡なOLのカエデは、ぽっちゃり彼氏のコンちゃんとの結婚を控えているのに、勝手に奉公…

おせっかい屋のお鈴さん(堀川アサコ)

『たましくる』 や『幻想シリーズ』など、この世とあの世のあわいを軽妙に描く作品を生み出し続けている著者による、可愛い幽霊の物語。 物語の舞台は、著者も働いていたことがあるという杜の都・仙台。地元の信用金庫に勤めている平凡な27歳の村田カエデ…

神様のカルテ(夏川草介)

2010年本屋大賞の2位となった、現役の医師である著者のデビュー作です。 櫻井翔、 宮崎あおい、要潤らのキャストで映画化もされていますが、未見です。 主人公の栗原一止(イチト)は、信州にある「24時間、365日対応」の本庄病院で働く29歳の内…

図書館島(ソフィア・サマター)

不思議な雰囲気を湛えたハイ・ファンタジーです。著者はトールキンのように、本書の中で展開される世界を地名・人名・用語のみならず、歴史や伝承に至るまで丁寧に作り上げており、巻末に用語集までついているほど。 複数の国を統合したオロンドリア帝国の辺…

12モンキーズ(エリザベス・ハンド)

1995年に、ブルース・ウィリス、マデリーン・ストウ、ブラッド・ピットの主演で映画化された作品です。シンガポールで見たのですが、難解で理解できませんでした。20年後に本書を読んで、ようやく理解した次第です。 21世紀初頭、全世界に蔓延したウ…

モモコとうさぎ(大島真寿美)

モモコ、22歳。離婚と再婚を繰り返す母のおかげで複数の父を持つモモコは、就職に失敗して、母親とも折り合いが悪くなり、居場所を失ってしまいました。突然家出して転がり込んだ先の友人たちは、それぞれ就職や結婚に神経をすり減らしており、もはやモモ…

仇敵(池井戸潤)

今を時めく池井戸潤さんの比較的初期の作品です。主人公は、大手銀行のエリートであったものの不祥事の責任をとらされて退職し、今は弱小銀行の庶務行員として働いている42歳の恋窪商太郎。なんとなく設定が、前日読んだ『身をつくし(田牧大和)』に似て…

身をつくし(田牧大和)

新感覚の時代小説を次々に著している著者の、文壇デビュー直後の作品です。主人公は、かつて南町奉行所内の筆頭与力であったものの訳あって失職し、今は根津権現近くで「よろず相談所」を開いている美男の清四郎。 腕利きで面倒見の良い清四郎のもとには、市…

フランスロワール古城めぐり(宮本唯志/海野弘)

2冊続けてフランス・ロワール地方の旅行記を読みました。先に書いた通り、来年行こうと思っているのです。『ロワール河畔古城めぐり』が古城の紹介が中心だったのに対し、本書はロワール地方に点在する街の魅力を中心に紹介したもの。それでもそれぞれの街…

ロワール河畔古城めぐり(中村総一郎)

写真家でもフランス文学翻訳者でもある著者は、フランス留学中に写真表現の魅力に目覚めたとのこと。ロワール河畔に広がる古城の魅力を、数多くの写真と文章で表現した作品です。 シュリー=シュル=ロワールからシャロンヌの間の300kmが、世界遺産に登…

リンカーンとさまよえる霊魂たち(ジョージ・ソーンダーズ)

1862年7月、リンカーンは11歳の息子ウィリーを病気で亡くしました。前年に開始された南北戦争の遂行中であったにもかかわらず、息子の遺体が安置された納骨所で長い時間をすごしたほどの精神的打撃を受けたと伝えられています。 著者は、その事実から…

七人のイヴ 2(ニール・スティーヴンスン)

いきなり分裂した月の破片が、2年後に地球に降り注いで人類を滅亡させるとの予測に基づいて計画された「宇宙の箱舟計画」は、混乱を引き起こしながらも進行しています。既存の国際宇宙ステーション「ISS」の周囲には、各国から選ばれた1500人の集団…

七人のイヴ 1(ニール・スティーヴンスン)

「新☆ハヤカワSFシリーズ」に、ビル・ゲイツが絶賛し、オバマ前大統領も楽しんだという社会派SFの巨匠の新作が登場。原書で880ページの大作が、3分冊で刊行されています。 冒頭でいきなり、月が7つに分裂してしまいます。小型のブラックボールに貫…

マザリング・サンデー(グレアム・スウィフト)

「マザリング・サンデー」とは、屋敷に住込んでいるメイドが年に一度、実家に帰ることを許される3月末の日曜日のこと。日本で「藪入り」が死語となったのと同様、イギリスでも既に廃れてしまった風習なのでしょう。 1924年のその日、帰る実家もない孤児…

死の鳥(ハーラン・エリスン)

先に読んだ『ヒトラーの描いた薔薇』は、著者の日本版オリジナル短編集としては3冊目ですが、第1短編集は40年も前とのことなので、本書が「再発見」後の実質的な第1短編集といえるでしょう。とんでもない奇想と激しい情熱という点では、こちらの方が上…

みかづき(森絵都)

「著者5年ぶりの長編」というと、格差社会のルーツを1995年に求めた『この女』以来ということですね。日本における学習塾の変遷を体現する家族を主人公に据えて、戦後の教育史をたどった本書は、2017年本屋大賞の第2位に選ばれています。 物語は昭…

詩神の声聞こゆ(トルーマン・カポーティ)

冷戦下の1956年に、ソ連でミュージカル「ボギーとベス」を公演することになったアメリカの劇団に同行したカポーティが綴った、ノンフィクション小説です。戦争に同行した従軍小説家などの例を除くと、当時小説家がこのような作品を自主的に書くことは珍…

ゴースト(中島京子)

ゴーストが登場する7編の短編の全てから溢れ出て来るのは郷愁です。著者は「過去というものが、実は今を生きている人の真横に存在していることを書きたかった」と語っていますが、幽霊とは人を怖がらせるものではなく、何かを伝えるために登場するものなの…

ミレニアム5 復讐の炎を吐く女(ダヴィド・ラーゲルクランツ)

『ミレニアム1』が世界的ヒット作となる前に急折した原著者スティーグ・ラーソンの跡を継いで、ダヴィド・ラーゲルクランツが執筆を始めた新シリーズは、見事に成功しているようです。著者の第1作となった『ミレニアム4』でリスベットのコードネーム「W…