りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

2013/11 幸福の遺伝子(リチャード・パワーズ)

須賀しのぶさんの超大作少女小説「流血女神伝」全25巻の最終シリーズ『喪の女王』を楽しく読ませていただきました。登場人物は類型的に思えたものの、独特の世界観に加えて、何より勢いがありました。 でも、今月の1位はやはり『幸福の遺伝子』でしょう。…

スイーパーズ(加藤実秋)

変人そろいで事件や事故現場専門の清掃会社でパート社員として働く桃子には、不思議な能力がありました。それは、現場に残された「思い」を感じとって異常感覚が発現してしまうこと。しかもその感覚は、事件が解決されるまで元には戻らないのです。 前巻の『…

こいわすれ(畠中恵)

町名主の跡取り息子の高橋麻之助と悪友たちのお江戸青春ミステリー『まんまことシリーズ』の第3弾ですが、思いもよらない悲しい幕切れが待っています。 「おさかなばなし」 置いてけ堀で河童被害者? 悪友の清十郎もおぼれかけ、子どもが行方不明になったと…

閻魔の世直し(西條奈加)

表の顔は堅気の商売をしているものの裏の顔は凄腕の悪党揃いという『善人長屋』の続編です。悪党と言っても最低限の人の道を外すことなく、むしろ手違いでここに住み込んだ「長屋で唯一の善人」加助の人助けに振り回されてばかり。差配の娘のお縫は、ニュー…

最初の恋、最後の儀式(イアン・マキューアン)

本書が出版された1970年代ではまだ、近親相姦や小児性愛や服装倒錯や幼児退行などはタブーに属していたのでしょう。現代ではすでに目新しくはないテーマなのですが、各短編を貫いてるのはエロティシズムではありません。むしろ皆が心の奥底に秘めており…

比類なき翠玉(ケルスティン・ギア)

「時間旅行者の系譜」とのサブタイトルを持つファンタジー3部作の最終巻。自分が突然、「円環を閉じる」役割を担う12人目のタイムトラベラーであると気づかされ、準備もないまま過去への冒険に狩りだされたグウェンは、普通の女子高校生。ペアを組まされ…

ハピネス(桐野夏生)

3歳になる娘・花奈とベイエリアのタワーマンションに住むヤンママの有紗は、アメリカに単身赴任中の夫から離婚を迫られています。娘の幼稚園お受験どころか、義父母からもマンション賃貸料負担が重いとこぼされ、「地に足をつけていく」よう苦言を呈される…

なぜ、ぼくのパソコンは壊れたのか?(マイナク・ダル)

『インターネットを探して(アンドリュー・ブルーム)』のような、ネット社会の背景に迫るような本ではありませんでした。ビジネスマンの生き方を見つめ直すきっかけを与えることをテーマとした作品です。ちょっとした「ビジネス本」のようなもの。 大手家電…

怪魚ウモッカ格闘記(高野秀行)

コンゴの幻獣『ムベンベ』やトルコの怪獣ジャナワールなどの捜索をしてきた「未確認未知動物探検家」の次のターゲットはインド発の怪魚情報でした。「モッカ」というハンドルネームの日本人によって目撃された魚だから「魚+モッカ」=「ウモッカ」。現地の…

ビルマ・アヘン王国潜入記(高野秀行)

「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをして、それを面白おかしく書く」ことをモットーにしている、早稲田大学探検部出身のレポートだけのことはあります。世界最大のアヘン生産地にして反政府ゲリラが支配するビルマのワ州に潜入し、辺境の村で半…

どんがらがん(アヴラム・ディヴィッドスン)

「奇想コレクション」で最後まで未読だった一冊。SF、ミステリ、幻想小説など分野の異なる各賞を受賞した著者の作品らしく、多彩です。晩年は不遇だったようですが、元の奥様による「序文」が丁寧な弔辞となっています。 「ゴーレム」 静かな住宅街に住む…

MAMA(紅玉いづき)

『ミミズクと夜の王』で電撃小説大賞を受賞した著者の第2作はやはり魔物の物語ですが、前作よりも「グリム色」は薄れているようです。 魔術師の血筋であるサルバドールに生まれたものの魔術の才には恵まれなかった少女・トトは、神殿の奥に迷い込んで「人喰…

ナイフ投げ師(スティーヴン・ミルハウザー)

自動人形、遊園地、気球飛行、百貨店・・。どれをとっても不思議な違和感が漂う12編の短編。身の回りの普通の「もの」が過剰に完璧になると「芸術」になるのです。普通の「ひと」を過剰に描写すると「文学」になるように。「ミルハウザーの世界」へようこ…

ハタラクオトメ(桂望実)

すでに多くの作家が「働く女性たちの痛快お仕事小説」というジャンルの作品を手がけていますので、テーマ自体には新味はありません。でも『県庁の星』の著者である桂さんにとって、これは得意分野ですね。中堅時計メーカーという、実際にもダイバーシティの…

喪の女王 7~8(須賀しのぶ)

全27巻を費やした「流血女神伝シリーズ」がついに完結。この3ヶ月、楽しませていただきました。歴史小説のエッセンスを詰め込み、ラブコメのパウダーを振り掛け、しかも神々からの人間の自立というテーマで包み込んだ大河ファンタジーは、長さは圧倒的に…

喪の女王 5~6(須賀しのぶ)

ユリ・スカヤ王国の新女王となったネフィシカは、ザカリエ女神への帰依を明らかにします。エティカヤ王国のバルアンとは崩壊寸前のルトヴィア帝国の分割の密約を交わす一方で、亡国のザカールの民を糾合すべく「女神の娘」であるカリエをミゼーマ宮に幽閉。…

喪の女王 1~4(須賀しのぶ)

「流血女神伝シリーズ」の最終第4部の開始です。人間としての意思を信じて「ザカリア女神の花嫁」としての運命を振り切り、ザカールから脱出したカリエは、リウジールの子を宿したまま北の王国ユリ・スカナへと向かいます。旅の途上でカリエが産み落とした…

人間のしるし(クロード・モルガン)

須賀敦子さんの『遠い朝の本たち』で紹介されていた作品です。若い日の須賀さんに影響を与えたという本書は、著者自身がドイツ軍の捕虜となっていた時から書きはじめられたという「知識人のレジスタンスの物語」であるのみならず、新しい男女関係のあり方に…

ビブリア古書堂の事件手帖 2(三上延)

北鎌倉の古書店を舞台にした人気シリーズの第2弾。洞察力と推理力と古書知識を持つものの、本に関すること以外では人見知りの女性古書店主・篠川栞子が、本を読めないバイト青年・大輔をワトソン役にして、本に関するミステリを解き明かしていく連作短編集…

琥珀捕り(キアラン・カーソン)

ベルファスト生まれの詩人による不思議な小説は分類不可能とのことで「文学においてのカモノハシ」と評されるほど。 AからZまでの章題のもとに紡がれている物語は、父親が語ってくれた「冒険王ジャック」の不思議な物語、ギリシャ神話の変身物語、中世キリ…

幸福の遺伝子(リチャード・パワーズ)

『ガラテイア2.2』で人工知能を、『エコー・メイカー』で脳科学をテーマとしてきた著者は、最新作で遺伝子工学を扱いました。人間の探求に関わる科学分野への人文的なアプローチです。 スランプに陥った元作家ラッセルの創作クラスに参加したアルジェリア…

みをつくし料理帖8 残月(高田郁)

尊敬する小松原様(御膳奉行の小野寺数馬)との縁談を断り、吉原の大火で又次を失った澪の物語は、新しい局面に入ったようです。いろいろな動きが出てきました。 天満一兆庵の跡継ぎでありながら行方不明であった佐兵衛の行方が判明します。母親の芳との再会…

失踪者たちの画家(ポール・ラファージ)

死んだ男が無限の都市をさまよう奇想天外な「序」で幕を開ける本書は、どこまでが幻想でどこからが物語なのか判然としない作品です。 都会に出てきた若者は、「絶望カメラ」で死者の写真を撮り続ける女性に恋をしますが、彼女は突然消え去ってしまいます。彼…

遠い朝の本たち(須賀敦子)

須賀さんが少女時代から大学時代にかけて読んだ本について語った作品ですが、それだけではありません。彼女の精神を生涯に渡って導くことになった「本たち」を最晩年になって振り返った本書は、そのまま彼女の成長記となっているのです。 友人しげちゃんが貸…