りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

琥珀捕り(キアラン・カーソン)

イメージ 1

ベルファスト生まれの詩人による不思議な小説は分類不可能とのことで「文学においてのカモノハシ」と評されるほど。

AからZまでの章題のもとに紡がれている物語は、父親が語ってくれた「冒険王ジャック」の不思議な物語、ギリシャ神話の変身物語、中世キリスト教聖人伝、アイルランドの民話、フェルメールの作品と贋作者の物語、17世紀のオランダ黄金時代を巡る蘊蓄、歴代の奇人たちの夢想と現実など。物語の構造も、入れ子あり、テーマの尻取りもワープもスピンアウトもありで、要するに自由自在。

いたるところに散りばめてある「琥珀譚」は道しるべなのか、目くらませなのか。仮に道しるべとしても、では導かれる先はどこなのか。琥珀に閉じ込められた昆虫や化石は「物語」を指すのか、「読者」のことなのか。それともパラパラ漫画から切り取られて静止した1枚のようなものなのか。しかし、一般読者としては悩む必要などないのでしょう。ひとつひとつの物語や博覧強記のデテイルの面白さに身を委ねているだけで十分なように思えます。

ひとつだけ注意深く読んだほうが楽しめそうなことは、さまざまなバリエーションで繰り返される同じような物語の微妙なズレ。語り直されるたびに少しずつズレていく様子は、まるでジャズの即興演奏のよう。訳者の栩木さんは「言語のリサイクルないし磨き直しこそ、アイルランドの口承文化が得意とするところ」と述べていますが、伝言ゲームで起きるようなズレが起きた理由を考えることによって、読者の想像力も広がっていくようです。

2013/11