りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

コレクションズ(ジョナサン・フランゼン)

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既読だったのを忘れて、出張に持参してしまいまいた。読み始めてすぐに気付いたけれど、飛行機の中では他の本はないし、読むしかない!でも、再読して気付くポイントも多いのです。デテイルも楽しい作品ですし。

年老いて病んだ頑固な老家長アルフレッド。夫と子どもたちに落胆させられ続きのイーニッド。裕福な銀行員なのに妻子と折り合いの悪い長男ゲイリー。女学生と関係を持ってしまい大学をくびになった次男チップ。有名シェフになったものの恋愛問題を抱える末っ子のひとり娘デニース。

ランバート家の5人の視点から描かれる「家族の物語」は、まるで惨めさを競い合っているかのよう。ではなぜ、中流以上の暮らしをしている家族がそれぞれ幸福ではないのでしょうか。本書は「アメリカの病」ともいうべき問題を丁寧に、しかもコミカルに描き出していくのです。

それは、アメリカが好景気に沸いた1990年代という時代背景と深い関係があるようです。誰もが豊かになっていく時代に取り残されるのではないかという焦燥感。理想的な家族像を築き上げられない挫折感。そんな人々の苛立ちを食い物にして成長した精神医学。この家族関係の「コレクション(修正)」には、ある悲劇が必要とされたのです。それだって、見ようによっては喜劇的なのですが・・。

病が進行するアルフレッド。夫との北欧旅行が大失敗に終わったイーニッド。妻との闘いに敗れたゲイリー。政情不安なリトアニアで詐欺行為を行い危険に陥ったチップ。レストラン・オーナーの妻との同性愛がばれて解雇されたデニース。物語は、家族が最後に集まるクリスマスに向かって疾走していきます。これがまた、見事なアンチ・クライマックスなんですけどね。^^

近著フリーダムで、同時多発テロ以降の2000年代のアメリカの苦悩を描き出した著者は、すでに本書でその予兆を見ていたかのようです。

2013/6再読