りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ちょっとピンぼけ(ロバート・キャパ)

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沢木耕太郎さんのキャパの十字架を読んで、本書を再読してみたくなりました。

「世界一有名な戦場カメラマン」であるキャパの手記ですが、本書には写真論などいっさいありません。それどころか、ハンガリー生まれのユダヤ人であるキャパがアメリカに移住した経緯や、彼の名を高めたスペイン内戦の体験や、恋人ゲルダの「戦死」などの「個人史」も、ほとんど登場しないのです。本書は、キャパが第二次世界大戦に従軍して、兵士と行動を共にしながら写真を撮りまくった数年間を回顧した作品なのです。

そもそも、アメリカ永住権は得ていたものの、枢軸側に立ったハンガリー国籍を持つキャパが、連合軍と一緒に「従軍」するというのは、容易なことではありません。写真雑誌「コリアーズ」と契約し、大使館関係者と酒友になって「パスポートらしきもの」を発行してもらって渡英。北アフリカ戦線や、イタリア戦線を取材している間に写真誌の契約解除。急遽「ライフ」に雇用してもらうなどのいきさつは、ドタバタです。この期間につきあっていたらしいピンキィという女性が登場する場面などは、妙に安っぽい。

それでも本書は「奇跡の書」なのです。もちろん、「ナポリ占領」や「ノルマンディ上陸」などの瞬間を鮮やかに切り取った唯一無二の戦場写真の素晴らしさを除いての評価です。本書の中には生々しい戦場体験が綴られており、戦場カメラマンの心意気や美意識や臆病さが現れており、さらには反戦思想までもが浮かび上がってくるのですから。

ユダヤ人であったキャパが、解放された収容所の写真を撮ることに全く関心を持たなかったというエピソードが、印象に残りました。彼にとって、それらの場面は記録写真であっても、報道写真ではなかったのでしょう。写真とは「人生の視点」なのですね。

2015/4再読