りぼんの読書ノート

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侍女の物語(マーガレット・アトウッド)

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近未来のアメリカ東部。キリスト教原理主義者たちが起こしたクーデター政権の下では、徹底した「管理社会」が実現していました。中絶、産児制限、性病の流行、原発事故、化学・細菌兵器、有害廃棄物などによって急落していた白人種の出生率を増加させるために、女性の人権を取り上げて男性の管理下に置くことにしたのです。

夫の管理下に置かれた初婚の妻を除く妊娠可能な女性たちを待ち受けていた運命は、子供のいない支配者階級の男性の家に派遣されて、出産のための道具である「侍女」となることでした。もともとの名前を奪われて「オブ+男性名」と呼ばれ、読み書きも自由な会話の機会も奪われて、監視と処刑の恐怖に怯えながら、「主人」に尽くすだけの日々。

本書は、母親も恋人も娘も奪われて「フレッド司令官」の「侍女」となった31歳の「オブフレッド」が、将来に残したテープを書き起こしたものという設定です。虐げられた女性の逃亡を助ける機関もあったようなのですが、彼女は無事に脱出できたのでしょうか。彼女が記した、自由で奔放だった親友モイラの末路は悲惨なものだったのですが・・。

今から30年前の1985年の作品ですが、人類にとって不幸なことに、著者が描いたディストピアは「イスラム国」という形で現出してしまったように思えます。不寛容な原理主義がいきつく先は、どの宗教でも似たようなものなのかもしれません。せめて願わくは、「イスラム国」に対峙する国々が「敵に似てくる」ことなど起きませんように。

本書の中で、司令官から「女性の計算では、1+1+1+1=4にならない」と言われた「オブフレッド」が、心の中で行う反論が印象に残りました。「ひとりひとり違っている人間を足し合わせることなどできない。答えは1+1+1+1のままなのだ」と。

2015/4再読