りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-01-01から1年間の記事一覧

2012 My Best Books

今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみます。 長編小説部門(海外) シャンタラム(グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ) オーストラリアの監獄から脱獄してインドへと逃走した男が、ボンベイのスラムに潜伏して無資格診療所を開設し、マフ…

2012/12 ソロモンの偽証(宮部みゆき)

長い出張を利用して小野不由美さんの『十二国記シリーズ』を全巻まとめて一気読みすることができました。荻原規子さんの『勾玉シリーズ』、上橋菜穂子さんの『守り人シリーズ』と並ぶ和製ファンタジーと呼ばれるだけあって、その世界観は確かです。 ただし今…

ソロモンの偽証 第3部(宮部みゆき)

いよいよ裁判が始まります。中学生による擬似法廷にすぎないのですが、自分たちの手で悪意に満ちた噂の真相を暴こうという真摯なものであり、それぞれの登場人物たちがこの裁判に賭けているものの大きさは、これまでの展開で明快になっています。 実際の進行…

ソロモンの偽証 第2部(宮部みゆき)

自殺として扱われた同級生・柏木の死亡事件に端を発してバラバラになった学校に対して、自分たちの手で事件を解決すると決意した優等生の藤野涼子が持ち掛けたのは、真相を究明するための「生徒による裁判」でした。このまま幕引きとしたい学校側は猛反対し…

ソロモンの偽証 第1部(宮部みゆき)

宮部さん5年ぶりの現代ミステリです。第3部まで一気読みしたいところですが、図書館から借りて読む身ではそうそう贅沢も言えません。じっと耐えて順番を待ちましょう。 物語はクリスマスの朝、雪が降り積もった中学校の裏庭で14歳の少年の死体が発見され…

リチャード三世「殺人」事件(エリザベス・ピーターズ)

シェイクスピアやフランシス・ベーコンによって、幼王を殺害して王位を簒奪した希代の悪物として描かれたヨーク朝最後の王「リチャード三世」の名誉を復権させたのは、ジョセフィン・テイによる歴史ミステリの傑作『時の娘』でした。彼女は、テューダー朝を…

家族熱(向田邦子)

『思い出トランプ』に始まる一連の向田邦子名の小説は、放送台本を諸田玲子さんがノベライズしたとのことで、さすがに通常のノベライズ小説よりも優れています。本書もそのシリーズの一作。向田邦子さんが作成したドラマも見たことはなく、小説も初めて読ん…

アリスへの決別(山本弘)

SF的想像力で社会通念を覆し、カルト思想の妥当性を問い直す短編が7作品収録されています。かなり楽しんで書かれたのではないでしょうか。 「アリスへの決別」 少女アリスのヌード写真を撮影する青年はルイス・キャロルのようですが、どうやらちょっと違…

過ぐる川、烟る橋(鷺沢萠)

1970年代に九州から単身上京してきた2人の青年。人並みはずれた体格に恵まれながら気が弱いために職場で苛められていた弟分の篤志は先輩の勧めでプロレスラーへの道を歩み、彼を何かと庇っていた兄貴分の勇は職場が倒産してから身を持ち崩していってし…

ふるあめりかに袖はぬらさじ(有吉佐和子)

幕末という時代の波に呑まれていく人々を描いた傑作戯曲であり、主役の遊女お園は杉村春子さんの当たり役となりました。その後は坂東玉三郎さんによって演じ続けられている長命の作品です。 吉原から横浜に落ちてきた花魁の亀遊は、今しも楼主が彼女を異人に…

魔性の子(小野不由美)

「十二国記シリーズ」の『黄昏の岸 暁の天』を現実の日本側から見た物語は、ホラー色が強くなっています。 高校2年生の高里要には、10歳の頃に神隠しにあって1年間行方不明だったという過去がありました。実はその間、彼の本来の姿である泰王の麒麟、す…

十二国記 ⑦華胥の幽夢(小野不由美)

シリーズの外伝的な短編集です。表題作を除いては、これまで登場してきた人物のエピソード。 「冬栄」 反逆者の襲撃によって異界へ飛ばされてしまう泰麒が、その直前に漣国に赴いた際のエピソード。泰王驍宗を選ぶという大役を果たしたものの、いまだ無力感…

十二国記 ⑥黄昏の岸 暁の天(小野不由美)

第2部『風の海 迷宮の岸』で泰王驍宗と巡りあい、幼いながらも麒麟の役目を果たした泰麒を恐るべき災厄が襲います。疾風の勢いで戴国を整えつつあった驍宗が反乱鎮圧に赴いたまま行方不明となり、襲撃されて角を折られた泰麒は、鳴蝕を起こして異界に姿をく…

十二国記 ⑤図南の翼(小野不由美)

この世界では、王や伯や仙となると不死の存在となるため、身体の成長もそこで止まるんですね。前巻で、まだ我儘娘だった祥瓊に厳しくあたり、悪王を討った恵侯に王位簒奪を進めるという、独特の鋭い切れ味を見せた恭国女王の珠晶は12歳の少女形。でもこの…

十二国記 ④風の万里 黎明の空(小野不由美)

慶国の王となった陽子の物語の続編は、3人の少女たちが出会う物語となっています。 ひとりめは玉座に就いた陽子ですが、荒れ果てた国土を回復させるという難行を前にして苦しんでいます。は女帝を軽んじる風潮の中で官から軽んじられるのみならず、自らの能…

十二国記 ③東の海神 西の滄海(小野不由美)

シリーズ第3部はさらに年代を大きく遡ります。第1部では陽子を、第2部では泰麒を助けた400年も続く大国・雁朝の立国物語。延王・尚隆も、延麒・六太も、戦国時代の日本で生を受けた「胎果」です。尚隆は戦乱の中で滅んだ小国の領主の息子であり、六太…

十二国記 ②風の海 迷宮の岸(小野不由美)

シリーズ第2部は、いったん陽子の物語から離れて数年前に遡ります。 神託を受けて王を選びお仕えする神獣である麒麟は、金の果実として蓬山の木に実ります。母親代わりとなって麒麟の傍をかたときも離れず守りつづけるのは半獣の女怪であり、成人の日まで世…

十二国記 ①月の影 影の海(小野不由美)

長い出張の間に読みきってしまおうと思い、これまで未読だった「十二国記シリーズ」全巻を借り出しました。 長い物語は、ごく普通の女子高生の陽子のもとにケイキと名乗る男が現れて「・・見つけた」と呼びかけられるところから始まります。追手の異形の獣に…

傭兵ピエール(佐藤賢一)

宝塚の演目にもなった「ジャンヌ・ダルク秘話」的な物語です。佐藤賢一さんの初期の傑作でしょう。 英仏百年戦争の末期、貴族の私生児として生まれながら傭兵隊長となっていた無頼漢ピエールが雇われたのは、包囲されたオルレアンを救出に向かうフランス王太…

国芳一門浮世絵草紙5 命毛(河治和香)

幕末の浮世絵師、歌川国芳の娘・登鯉を主人公とした「国芳一門浮世絵草紙シリーズ」がついに完結しました。第1巻『侠風むすめ』の時代背景が天保の改革だったことを思うと、水野忠邦の失脚からペリー来航を経て安政大地震で終わる本書まで20年以上の年月…

タフの方舟 2.天の果実(ジョージ・R・R・マーティン)

さて、第1巻の『禍つ星』に続いて、第2巻の始まりです。 「 タフ再臨」 方舟修理代の借金を返済するためにス=ウスラムを再訪したタフが驚いたのは、前回の騒動が美化されたタフとトリーの恋愛アクションドラマとなって人気を博していることでした。大衆を…

タフの方舟 1.禍つ星(ジョージ・R・R・マーティン)

この本は面白いと聞いていたのに、なかなか読む気になれなかったのは、表紙に描かれた主人公ハヴィランド・タフの姿に引いてしまったからです。身長2メートル50で太鼓腹の持ち主、無表情な長い顔に大きな手、ツルッ禿でまっ白な肌というのですから。しか…

2012/11 世界の99%を貧困にする経済(ジョセフ・E・スティグリッツ)

アメリカ大統領選は民主党の勝利に終わりましたが、富裕層への恩恵こそが社会の活力を増すと主張してきた共和党との対立点は明快でした。とはいえ現在のオバマ政権の政策ですら、高齢層へのメディケア導入を除けば、「世界の99%を貧困にする経済」からの…

無声映画のシーン(フリオ・リャマサーレス)

『狼たちの月』や『黄色い雨』の著者による自伝的な要素を含む作品です。 著者が少年期の12年間を過ごした鉱山町オリェーロスの記憶が、母が大事にしまっていた30枚の写真によって呼び覚まされたというのですが、ここでは自伝とフィクションの境界はすで…

県庁おもてなし課(有川浩)

高知県出身の著者が「高知県観光特使」に選ばれたことをきっかけとして、故郷に送ったエールです。 観光立県を目指す高知県の県庁に生まれた新部署「おもてなし課」の若手職員の掛水は、観光特使就任を依頼した地元出身の作家・吉門から一喝されます。特使就…

窓の向こうのガーシュウィン(宮下奈都)

未熟児として生まれたせいか、普通の会話も苦手で他人とは距離をとり続け、ずっと欠落感を抱えて19年間生きてきた佐古は、介護の資格を取ったもののうまくこなせず、あちこちで担当を替えられていました。 そんな佐古がはじめて居心地の良さを感じた場所は…

廃墟建築士(三崎亜記)

『となり町戦争』以来、独特の感性に基づくミステリアスな小説世界を築き上げている著者による中篇小説集です。このひとの作風は、非日常の世界を日常感覚で描き出すところにあるのですが、いずれも「建物」をテーマにした本書の作品でも、その特徴は健在で…

青葉耀く(米村圭伍)

「平成の講談師」を自認する著者の新作は『退屈姫君シリーズ』や『紅無威おとめ組』シリーズと比較して、しっとりた語り口で綴られています。それもそのはず、本書のテーマはかなりリアリスティックなのですから。あくまで他の作品との比較において・・なん…

LOVE&SYSTEMS(中島たい子)

デビュー作『漢方小説』以来、自分自身をモデルにしたかのような等身大の女性を描いてきた中島さんによる、なんと「近未来SF小説」です。といっても、宇宙人やタイムマシンが出てくるわけではありません。少子高齢化問題に対応するために変貌してしまった…

虚像(メディア)の砦(真山仁)

『ハゲタカ』シリーズによって世界標準から孤立した日本の商慣習にメスを入れた著者が、日本におけるメディアの問題を、報道とバラエティという2つの側面から問いかける小説です。 主人公は民放キー局の報道番組ディレクター風見と、バラエティー番組プロデ…