りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008-12-01から1ヶ月間の記事一覧

2008/12 舞踏会へ向かう三人の農夫(リチャード・パワーズ)

今年の最大の収穫は、リチャード・パワーズと出会ったこと。9月の『囚人のジレンマ』、11月の『ガラテイア2.2』に続いて、今年3度目の月間ベスト。ちょっと調整しようかとも思ったのですが、その余地すらありませんでした。新刊の『われらが歌う時』…

警察署長(スチュアート・ウッズ)

佐々木譲の『警官の血』がこの本と較べられていましたが、オリジナルを読んでいませんでした。でも「似て非なる物語」との印象を持ちましたので、ここでは比較しないでおきましょう。 ジョージア州の田舎町デラノを舞台にした、1920年から44年間に渡る…

2008 My Best Books

2008年を振り返っての「ベスト本」を選んでみました。 長編小説部門 神なるオオカミ(姜戎) 今年の最大の収穫は、リチャード・パワーズという作家を知ったことですし、イアン・マキューアンの『贖罪』も、コニー・ウィリスの『航路』も素晴らしかったけ…

幻影の書(ポール・オースター)

妻と子を飛行機事故で失って絶望のふちにいた男を救ったのは、一本の無声映画。彼に笑いを取り戻してくれたのは、たった数年間、数本の無声映画に出演しただけで謎の失踪を遂げた喜劇役者ヘクターの、大真面目さを滑稽さに昇華させた映像。 主人公デイヴィッ…

闇の子供たち(梁石日)

衝撃的な本です。どこまでが取材に基づく実話で、どこからが作者の創造なのかは判然とはしないのですが、いかにも、現実に起きていることのように思えるのです。 タイの小児売買。わずか8歳で実父により売春宿に売り飛ばされ、小児性愛者の玩具として弄ばれ…

銀座開化おもかげ草紙(松井今朝子)

『幕末あどれさん』に続くシリーズ2冊めだそうです。前作があることを知らずに読み始めてしまったのですが、ここからでも話は追えます。 主人公の旧旗本の久保田宗八郎は、前作で江戸幕府の瓦解期に青春時代をすごした後に開拓移民として北海道へ渡ったとの…

メモリー・キーパーの娘(キム・エドワーズ)

せっかく面白いテーマなのに、浅い。テンポいい展開だけど、類型的。TVドラマ向けの小説・・と思って読んでいたら、既にTV映画化されたとのこと。 医師の妻が男女の双子を出産したものの、妹のほうは明らかなダウン症。かつて病弱な妹を亡くした母の嘆き…

エヴァ・ライカーの記憶(ドナルド・A・スタンウッド)

30年近く前の1979年に刊行された本が、復刊されました。恩田陸さんの「タイタニックものでは一番面白い」との評価が効果あったのでしょうか。 本書の背景となっている時代は1962年。史上最大の海難事故といわれる1912年の「タイタニック」の沈…

ファニーマネー(ジェイムズ・スウェイン)

前作『カジノを罠にかけろ』でデビューした、62歳のカジノ・コンサルタントのトニーが活躍する、シリーズ第2弾。アトランティック・シティの刑事として定年まで勤め上げ、カジノの不正行為を取り締まっていたトニーは、現役時代に鍛え上げた技を生かして…

ウォールストリートの靴磨きの告白(ダグ・スタンフ)

ウォール街の大金融会社では、専用の靴磨きを雇っているんですね。1日中オフィスを回って、トレーダーや経営者の靴磨きをするんだそうです。固定給はほとんどなく、チップ収入が生活の糧。それって、ものすごい情報量を耳にする機会がありそうです。そもそ…

義民が駆ける(藤沢周平)

藤沢さんの故郷である庄内地方で、江戸時代に起こった実話をもとにした時代小説です。徳川譜代の名門・酒井氏が220年もの間治めてきた庄内藩に対して、「天保の改革」を進めようとする老中首座・水野忠邦から突然言い渡された「三方国替え」の危機に対し…

恐怖の兜(ヴィクトル・ペレーヴィン)

牛頭の怪物ミノタウロスの迷宮伝説を現代的な物語に仕立て上げてくれたのは、「ロシア文学界の異端児にして人気者」と言われるペレーヴィン。といっても、全然知らなかった作家ですけど^^; 8人の男女によるチャット形式で進行する物語。彼らはそれぞれ、…

コペルニクス博士(ジョン・バンヴィル)

久しぶりにバンヴィルを思い出しました。本書はコペルニクスの生涯と作品についての小説ですが、もちろん伝記ではありません。後の『ケプラーの憂鬱』と同様に、黎明期の天文学者が、当時科学を支配していた宗教と、内面的にも対外的にも、どう折り合いをつ…

ホームズ二世のロシア秘録(ブライアン・フリーマントル)

前作で、チャーチルから第一次世界大戦前夜のアメリカに派遣されてドイツに味方する秘密結社の存在の暴露に成功した、ホームズの息子セバスチャンが、今度は革命前夜のロシアに乗り込みます。依頼主は、またもチャーチル。依頼内容は、革命機運の高まる帝政…

M・D(トマス・M・ディッシュ)

『歌の翼に』のたった一冊で「私の心を撃ち抜いた」デイッシュの本を久しぶりに読みました。クリスマスの前日、6歳のビリーは幼稚園のシスターから「サンタクロースなどいない」と言われショックを受けますが、失意の少年の前に現れたのはサンタクロースな…

脱出記(スラヴォニール・ラウイッツ)

「シベリアからインドまで歩いた男たち」との副題があります。厳寒の北シベリアからバイカル湖を越えてモンゴルに入り、そこからゴビ砂漠を横断してチベットへ、さらに冬のヒマラヤを越えてインドに至る6500キロもの過酷な道のりを、1年以上かけて歩き…

月の骨(ジョナサン・キャロル)

過去には色々あったけど、心優しい男性と結婚して、可愛い娘だって授かった。カレンは幸福な生活をおくっていたのです。ところが最近になって不思議な夢を見るようになってしまいました。ロンデュア・・不思議な夢の世界。カレンはそこで息子のペプシと一緒…

舞踏会へ向かう三人の農夫(リチャード・パワーズ)

1914年の春、ドイツ人写真家であるアウグスト・ザンダー氏が撮影した一枚の写真には、「舞踏会へ向かう三人の農夫」との表題がありました。著者とおぼしき主人公は、デトロイトの美術館でこの写真を見た瞬間にインスピレーションを得て、「彼らがたどり…

それは私です(柴田元幸)

今や日本を代表する翻訳者の柴田さんのエッセイです。アーヴィング、オースター、ミルハウザー、パワーズなど、現代アメリカを中心とする良質なポストモダン文学を翻訳されている知的で冷静な方・・というイメージを覆す、妄想いっぱいの内容は意外でした。 …

シャーロック・ホームズの息子(ブライアン・フリーマントル)

スパイ小説の大家が著した「ホームズ・パスティーシュ」。しかし、物語のジャンルは探偵ものではありません。この本が見事に仕上がったのは、著者の得意分野であるスパイ小説としたからですね。 まず著者が主人公として創作したのが、本編では存在しない「ホ…

雲南の妻(村田喜代子)

ピンクレディが日本で流行っていたというから、30年近く前の時代のことでしょうか。中国雲南の奥深い地で少数民族から希少な茶葉の買い付けをする商社駐在員の妻が、通訳に雇った少数民族の若く美しく聡明な女性から、「女同士の結婚」を提案されます。 既…

私の話(鷺沢萠)

鷺沢さんが、3つの時期を描いた自伝的小説です。表紙にある、家族の集合写真がいいですね。 1992年。22歳。母親の大病と自らの離婚という逆境の中で、幼い頃からの生活を振り返ることで立ち直ろうともがく自分自身の姿が客観的に描かれます。 199…

忍びの国(和田竜)

大ヒット作『のぼうの城』を読む前に、こちらの順番が回ってきてしまいました。 伊勢の北畠家を滅亡させた余勢を駆って、戦国大名不在の隣国・伊賀に攻め入った織田信雄をこてんぱんに打ち破った伊賀の忍びたちの物語。世に言う「第一次天正伊賀の乱」ですね…

応為坦坦録(山本昌代)

月の骨さんが紹介してくれた本です。最後の一言が印象的な小説でした。「生きているうちに忘れられた人間は、死んだ後では思い出しようがない」 本書の主人公である、葛飾北斎の娘・お栄(応為)もそんな1人。一度は結婚したもののすぐに離縁して、北斎のもと…

時のかさなり(ナンシー・ヒューストン)

『天使の記憶』で、20世紀ヨーロッパの悲劇を背負ったような男女の痛ましい出会いを描いたナンシー・ヒューストンさんの、新潮クレストブックからの2冊目の本。 本書の舞台は、ドイツを起点にして、カナダ、イスラエルからアメリカにまで広がります。ただ…

2008/11 ガラテイア2.2(リチャード・パワーズ)

『ガラテイア2.2』や『おそろし』をファンタジーと言ってしまっていいものでしょうか。でも、これらの本は紛れもなく、素晴らしいファンタジーなのです。次点にあげた『詩羽のいる街』も同様です。上質のファンタジーというものは、著者の世界観や人生観…

ビューティフル・ネーム(鷺沢萠)

鷺沢さんの小説は、どうしてこんなに心に迫ってくるのでしょう。電車の中で、涙がポロポロこぼれてきて、恥ずかしくて仕方ありませんでした。 小説としては、それほど水準が高いものではないのかもしれません。でも、在日韓国人三世である主人公のとまどいや…