りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2014/7 かくれ里(白洲正子)

今月のキーワードは「消え行くもの」とでも纏められるのかもしれません。日本の「かくれ里」も、中国奥地の少数民族も、さらには存在したことすら認識できない巨大知性体も皆、「消え行くものは美しい」のです。 科学ノンフィクション・ライターであるサイモ…

別冊図書館戦争 2(有川浩)

ベタ甘の別冊第2弾では、堂上篤と笠原郁はすでに結婚しています。郁は、自分が入隊する前の夫のエピソードを聞かせて欲しいとせがむのですが、こういう話を自分でするのは恥ずかしいものですよね。今は名コンビになっている堂上と小牧が意地を張り合ってい…

別冊図書館戦争 1(有川浩)

表現の自由をめぐって、メディア良化委員会と図書館が互いに武装勢力を有して抗争する『図書館戦争シリーズ』の本編は、第4巻の『図書館革命』をもって、完了しています。本書は、本質的にラブコメでもあった同シリーズで、最後の最後に恋人関係になった熱…

アルグン川の右岸(遅子建)

アルグン川とは、旧満州であった中国最北端とロシアを隔てる国境の川のこと。ロシア人に追われて中国領の右岸へと逃れ住んだエヴェンキ族の灯が、今まさに消えようとしています。森林は伐採され、原野に道路が切り拓かれ、トナカイの群れは鉄条網に囲われ、…

だから荒野(桐野夏生)

「家族」とは耕しようもない「荒野」なのか。手をかける価値のある「沃野」なのか。「荒野」を「沃野」へと変容させることは可能なのか。夫や息子たちに軽んじられながら家庭を支えてきた主婦の朋美は、46歳の誕生日についに反旗を翻します。憤然とレスト…

骨とともに葬られ(ジェニファー・リー・キャレル)

『シェイクスピア・シークレット』が文庫化される際に改題された作品です。これは反則ですよね。同じ主人公ということはわかっていたので、続編かと思って借りてしまいました。しかも出張の際に持参したので、既読と判明してからも再読するしかなかったので…

日暮れまでに(マイケル・カニンガム)

マンハッタンの美術商を営む40代のピーターは、同年代の妻レベッカと営んできた「そこそこ幸せ」な生活が色褪せつつあるように感じてきています。 成功している同業者が死病に取り付かれて引退すると聞いて「老い」を意識しはじめたこと。両親と離れて西海…

小説のタクティクス(佐藤亜紀)

『小説のストラテジー』と対をなす創作論です。著者の主張を要約してしまうと、「形式の有効性を問う戦略に対して、内容の記述様式を問うのが戦術であり、様式は時代によって変化する」ということなのでしょう。ただし、本書の論考の大半は、1989年と2…

機械探偵クリク・ロボット(カミ)

1884年にピレネー山脈の麓に生まれ、闘牛士を志したものの断念してパリで小説家となったという著者が、戦後すぐの時代に書いたユーモア・ミステリ・シリーズです。といっても全2作であり、どちらも本書に収録されています。 探偵役を務めるのは、古代ギ…

厳重に監視された列車(ボフミル・フラバル)

20世紀のチェコ文学を代表する作家のひとりであるフラバルの作品が、松籟社から「フラバル・コレクション」として順次発行されるようです。本書はその第1弾。映画化もされています。 第二次世界大戦中、ドイツ保護領下にあったチェコスロバキアの田舎駅に…

バット・ビューティフル(ジェフ・ダイヤー)

村上春樹さんの翻訳というので手に取ってみました。「写真は雄弁」であり、「捉えられた瞬間の前後の数秒を含んでいるようだ」とする著者が、草創期のジャズ・ミュージシャンの評伝を「創造的に」描いた作品です。写真と音楽によって喚起されたイメージが、…

ゴッサムの神々(リンジー・フェイ)

1845年のニューヨークというと、映画「ギャング・オブ・ニューヨーク」で描かれた、アイルランド移民とアメリカ生れの貧しい白人たちが、徒党を組んで抗争を繰り広げていた時代と重なります。この年に、ニューヨーク市警が創設されました。 大火災で顔に…

わがままなやつら(エイミー・ベンダー)

痛々しい女性たちの「生と性」を天才的な発想で描いた『燃えるスカートの少女』に続く第二短編集です。精神的な痛みが、肉体的な痛みとして表現される小説は減った感じで、私としては読みやすくなりました。とりわけ、ラスト2編は美しい作品です。 「死を見…

Self-Reference ENGINE(円城塔)

日本人としては2人目の「フィリップ・K・ディック賞」の次点にあたる特別賞を受賞した作品です。初期のコンピューターを指す「Difference Engine」から派生させたタイトルの意味は、「自己参照する巨大知性体」。 この「自己参照」が曲者なのです。他者か…

エステルハージ博士の事件簿(アヴラム・デイヴィッドスン)

19世紀から20世紀への変わり目のころにバルカン半島中央部に存在していた帝国は、あまりにも完璧に滅亡したため、今では誰の記憶にも残っていないといいます。その「スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国」を舞台にして、法学・医学・哲学…

ロケットガール1 女子高生、リフトオフ!(野尻抱介)

日本有数のハードSF作家という印象のある著者が、1993年から著した「ロケットガール」シリーズの第1弾です。 打ち上げ実験の失敗を続ける日本政府系の宇宙開発団体が、最後通告を受けてしまいます。生き延びる条件は、年内に有人ロケットを打ち上げる…

かくれ里(白洲正子)

大阪万博の前後といいますから、1970年ころ。日本が高度経済成長に沸いていた時代に、近江・京都・大和・越前の「かくれ里」を歩いて古典の美と村人たちの魂に深々と触れた紀行文集は、読売文学賞を受賞して、白洲さんの随筆の代表作となりました。 著者…

狼の夜(トム・エーゲラン)

ノルウェー発の国際謀略サスペンスです。チェチェン問題をテーマにしたテレビの討論番組の生放送中、出演していたチェチェン人亡命者の一団がテロリストの本性を剥き出しにします。武器を持ち、爆弾まで身体に巻いていた亡命者たちにTV局はあっさり乗っ取…

桜の園/プロポーズ/熊(チェーホフ)

わざわざ冒頭に「4幕の喜劇」と表記されているものの、貴族の没落を描いた表題作を「喜劇」と捉えた人は少ないのではないでしょうか。最近、三谷幸喜さんが『新たなる希望』で「チェーホフは喜劇」とぶちかました文章を読んで、あらためて再読してみました…

ビブリア古書堂の事件手帖 4(三上延)

江戸川乱歩のコレクションをめぐる長編作品となったシリーズ第4作では、ついに篠川姉妹の失踪した母親・智恵子が登場します。しかも、江戸川乱歩の古書をめぐっての登場というあたり、さすがにミステリめいた存在です。 学校法人経営者として厳格な教育家で…

ルーティーン(篠田節子)

「SF短編ベスト」と銘打たれた短編集です。篠田節子さんを「SF作家」と言われてもピンと来ないのですが、「SF的発想の持ち主」と言われるとうなずけます。ある現象に対して、現実的解釈をする作家か、ぶっ飛んだ解釈をする作家かと聞かれたら、間違い…

みをつくし料理帖9 美雪晴れ(高田郁)

このシリーズは次の第10巻で完結するとのこと。澪の周囲も慌しくなってきました。 名料理屋「一柳」の主人・柳吾から求婚された芳の心は決まっているのですが、なかなか承諾の返事ができません。前巻で行方が判明した一人息子の佐兵衛と話し合う機会を待っ…

世界を変えた地図(サイモン・ウィンチェスター)

オクスフォード大辞典の編纂秘話である『博士と狂人』や、19世紀末の世界に多くの影響を与えた『クラカトアの大噴火』など、科学ノンフィクション・ライターとして有名な著者の専攻は地質学です。 18世紀末から19世紀初頭にかけて活躍し、「地質学の父…

クラカトアの大噴火(サイモン・ウィンチェスター)

ジャワ・スマトラ両島間の狭い海峡に浮かぶ標高約800メートルの火山島クラカトアが、1883年8月27日に起こした大爆発は、なぜ「史上最悪の噴火」と呼ばれているのでしょう。「オクスフォード英語大辞典」の編纂事業を小説化した『博士と狂人』の著…