りぼんの読書ノート

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厳重に監視された列車(ボフミル・フラバル)

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20世紀のチェコ文学を代表する作家のひとりであるフラバルの作品が、松籟社から「フラバル・コレクション」として順次発行されるようです。本書はその第1弾。映画化もされています。

第二次世界大戦中、ドイツ保護領下にあったチェコスロバキアの田舎駅に、操車係見習いとして着任した青年ミロシュは、3ヶ月前の自殺未遂から回復したばかりでした。彼の自殺未遂の理由とは、恋人との初体験がうまくいかなかったという、戦時下にはふさわしくない牧歌的な理由。

「経験豊かな女性から学べばよい」とする医師のアドバイスに従おうとするミロシュは滑稽であり、先輩操車係のフビチカの行為は猥雑なのですが、駅を通過する列車は確かに戦争を運んでくるのです。飢えて無残な死を迎えつつ人間を咎める目を向ける「動物たち」は、チェコ人やユダヤ人を象徴しているのでしょうし、ナチス親衛隊員は颯爽として美しいのです。

そして若く美しいパルチザンのヴィクトリアが起爆装置を持って登場し、ミロシュの人生は決定的に変わってしまいます。ヴィクトリアの手ほどきによって自信を取り戻したミロシュは、査問にかかって駅から出られないフビチカに代わり、起爆装置を手にしてナチスの列車へと向かうのですが・・。

「悲痛な純粋さをもって現実と向き合う未熟な若者」というテーマは、世界の文学において繰り返し登場するものです。しかし「戦時下のチェコ」という緊迫した状況においてなお、牧歌的な悲喜劇として本書を描いた著者には、独特の感性を感じます。サーカスで働いていたミロシュの祖父が、催眠術でドイツ戦車隊を追い返そうとしてあっさりと轢き殺された冒頭のエピソードは象徴的です。

2014/7