りぼんの読書ノート

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水車小屋のネネ(津村記久子)

舞台はおそらく長野県の南端に位置する田舎町。そこで暮らす人々と支え合いながら、1981年から2021年までの40年間を過ごす姉妹の物語は、読者を暖かい気持ちにさせてくれます。

 

18歳の理佐は、シングルマザーの母の恋人に進学費用を使い込まれてしまったことで、家を出て自立することを決意。母の恋人から虐待されていた8歳の妹・律を連れて「蕎麦屋の手伝い+鳥の世話じゃっかん」という謎の求人先で働き始めます。繁盛している蕎麦屋は水車小屋の石臼で蕎麦粉を挽いていて、そこには3歳児くらいの知能を持つヨウムのネネが住んでいました。

 

亡くなった蕎麦屋のおじいちゃんの部屋を借りた若い姉妹は、少ないお金をやりくりしながらなんとか生活を始めていきます。蕎麦屋の守さんと浪子さん夫婦、石臼で絵の具の顔料を砕いてもらう画家の杉子さん、律の担任の杉崎先生、町のコーラス会の夫人たち。若い姉妹のことを気にかけている周囲の大人たちが、適度な距離感で援助してくれる様子がいいですね。理佐と律も助けられるばかりではなく、得意の手芸などでお返しをしていきます。そして視点人物が理佐から律に代わる10年後の第2話からは、姉妹は援助する側へと移っていくのです。

 

不幸な事件によって音楽家としての未来を砕かれた青年・聡。疲れ果てた母親との関係に悩む中学生の研司。杉子さんに憧れて画家を目指す若い女性の山下さん。不登校中学生の美咲ちゃん。彼らもまた人に援助する画側にまわっていくのでしょう。「誰かに親切にしなきゃ、人生は長くて退屈なものですよ」と語る杉崎先生の言葉こそが、本書を貫いて流れている人生観ですね。映画「ペイフォワード」を思い出しました。

 

そしてこれらの人たちを結び付けているネネの存在が効いています。ロックミュージックや映画のセリフや貧窮問答歌などのテンポのいいものまねが場の空気を和らげてくれるだけでなく、空から行方不明者を発見するなどの活躍もするのです。物語が始まった1981年で10歳だったネネは、最終章ではヨウムの寿命と言われる50歳になっています。ネネの死で物語が終わるのではないかと漠然と予想していたのですが、そうではなかったことに安堵しました。

 

2024/4