りぼんの読書ノート

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2018/12 みかづき(森絵都)

『真夜中の子供たち(サルマン・ラシュディ)』が世界的に高い評価を得ている理由は、読めばわかります。祖国インドへの報われない愛情が、奇想の中からひしひしと伝わってくる強烈な作品でした。
 
社会派SFの巨匠であるニール・スティーヴンスンの新作の骨格が、第2巻にしてようやく見えてきました。人類という種が破滅的な災厄をどのようにして生き延びるのか、最終第3巻に向けて期待が高まります。
 
森絵都さんの5年ぶりの作品は、昭和から平成に至る教育と塾の変遷を背景として、ひとつの家族の歴史を描いた大作です。


1.みかづき(森絵都)
学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在なのでしょうか。日本における学習塾の黎明期から現代へと至る過程を、ひとつの家族の夢や対立や和解として体現した本書は、戦後教育史の裏の流れと言うだけではありません。根底には「学ぶこと、理解することの楽しさ」が流れているのであり、それはどの時代においても変わらないものなのです。

 

2.リンカーンとさまよえる霊魂たち(ジョージ・ソーンダーズ)
南北戦争中に11歳の息子ウィリーを亡くしたリンカーン大統領は、大きな精神的打撃を受けたと伝えられています。しかし近代戦争の幕開けとなった南北戦争は、大量の死者を生み出し続けていたのです。家族を愛するあまりに現世にとどまっていたウィリーの霊魂は、父親の愛情をどのように受け止めたのでしょう。無垢な魂のみがなしえる迷える霊魂の救済と、大統領の重い決断の対比が、最後に感動を生み出します。

 

3.ミレニアム5 復讐の炎を吐く女(ダヴィド・ラーゲルクランツ)
急折したスティーグ・ラーソンの跡を継いで再開された新シリーズには、ストーリーラインのみならず、原著者の主張も受け継がれています。リスベットとミカエルが暴く、戦後スウェーデンで起きた国家規模のスキャンダルは、隠されていたリスベットの過去とどのように結びついていたのでしょう。次巻では、リスベットとカミラの天才姉妹対決が実現しそうです。

 

 

 

2018/12/27