今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみました。
長編小説部門(海外)
悪童日記(アゴタ・クリストフ)
国境の街で戦時を生きびた双子の少年を描いた、30年以上前に刊行された作品ですが、今読んでも感動的です。著者の自伝的な体験に隠された嘘は、続編になって明らかになるのですが、本書はこのままで完成度の高い作品です。
他の候補は、歴史に翻弄されて無為のまま生涯を終えようとしている老人の壮大な白昼夢を描いた『ソロ(ラーナー・ダスグプタ)』、運命の瞬間で分裂した世界と個人の関係を美しく描いた『わたしの本当の子どもたち(ジョー・ウォルトン)』、火星に置き去りにされた宇宙飛行士がDIYで生き延びる『火星の人(アンディ・ウィアー)』など。今年は「ベストSF部門」を設けても良かったかもしれません。
長編小説部門(日本)
みかづき(森絵都)
戦後の学習塾の変遷を背景として、ひとつの家族の歴史を描いた作品です。私自身は学習塾に通ったことはなく、学生時代に講師のアルバイトをした接点しかありませんが、昭和の雰囲気を思い出しながら読みました。「学ぶこと、理解することの楽しさ」が根底に流れている作品です。
他の候補は、不登校中学生の心情をファンタジー仕立てで見事に描いた『かがみの孤城(辻村深月)』、「LGBTQ」以前に存在すべき「I」を肯定するに至る『「i」(西加奈子)』、「北野天神縁起」を平安ビカレスクロマンとして描いた『腐れ梅(澤田瞳子)』など。最近、女流作家のほうが元気な気がします。
ノンフィクション部門
ギリシア人の物語3(塩野七生)
著者の「歴史エッセイ」最後の作品は、アレキサンダーの生涯で締めくくられました。キリスト教やデモクラシーという西洋近代史観に縛られることなく、それぞれの時代に現実的・合理的であったことに重きを置く「塩野史観」は、最後の最後まで健在でした。
他の候補は、「人間に知りえないこと」の最先端をわかりやすく解説してくれた『知の果てへの旅(マーカス・デュ・ソートイ)』、旧作ですがハードシップの高い地域への潜入記録である『謎の独立国家ソマリランド(高野秀行)』など。今年はあまりノンフィクションを読まなかったようです。
今年も素晴らしい本とたくさん出合えました。2019年もいい1年にしたいものです。家庭も、仕事も、読書も、そして健康も。来年もよろしくお願いいたします。
2018/12/28