2019年に読んだ本は272作品。例年より少ないのですが、2度の引越しなど生活環境が激変したことを思うと、健闘したほうかもしれません。今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみました。
・長編小説部門(海外):『ピュリティ(ジョナサン・フランゼン)』
「純粋という言葉の流布に疑問を提示したかった」との著者の思いは「ピュリティ」という主人公の名前に現れています。彼女の愛称が「ピップ」なのは、ディケンズの『大いなる遺産』を意識してのこと。若い女性を主人公に据えて、秘密と嘘、理想と現実、正義と不正、愛情と憎悪、罪と罰などのさまざまな要素が絡み合う、現代アメリカを代表する著者が紡ぎ出す家族小説は圧巻でした。
他の候補は「21世紀版『侍女の物語』とも称される『声の物語(クリスティーナ・ダルチャー)』、70歳を過ぎても瑞々しい作品を描き続けるコニー・ウィリスの『クロストーク』、長い時間をかけて惨劇から立ち直ろうとする女性の精神的な戦いを記録した『波(ソナーリ・デラニヤガラ)』など。
・長編小説部門(日本):『ゲームの王国(小川哲)』
天賦の知性を有する少年と他人の嘘を見抜く能力を有する少女が、過酷な現実を「敗者には死が与えられるゲーム」とみなすことで、カンボジアの内戦時代を生き延びます。やがて2人は、近未来における大統領選挙で争うことになっていきます。それぞれ異なる手法で「生き延びるためのゲーム」に勝利した2人が理想とする社会は、実現可能なのでしょうか。
他の候補は、物語世界の危機を童話的に描いた『雲上雲下(朝井まかて)』、本と相思相愛関係になることの素晴らしさを図書館史として綴った『夢見る帝国図書館(中島京子)』、人類はどのようにして生き延びることができるのでしょうか。10年に渡って書き継がれたSFシリーズのエンディングにふさわしい『天冥の標10.青葉よ豊かなれ(小川一水)』など。
・ノンフィクション部門:『極夜行(角幡唯介)』
既に未踏の地など残されていない現代において「新しい未知」として冒険家たる著者が選んだのは、極夜世界の単独行でした。太陽を見ない数カ月を過ごした後に極夜明けの最初の太陽を見た著者は、何を感じたのでしょう。この作家の存在を知ったことは、今年の大きな収穫でした。
他の候補は、同じ著者の『アグルーカの行方』、他に類のないアクション作家の誕生を描いた自伝『アウトサイダー(フレデリック・フォーサイス)』、宇宙開発黎明期の女性の活躍を綴った『ロケットガールの誕生(ナタリア・ホルト)』など。
今年も素晴らしい本とたくさん出合えました。2020年もいい1年にしたいものです。家庭も、仕事も、読書も、そして健康も。まだ「はてなブログ」を全然使いこなせていませんが、来年もよろしくお願いいたします。
2019//12/28