りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019/4 ゲームの王国(小川哲)

今月は「ディストピア小説の嚆矢」と言われる『一九八四年』をはじめとして、オーウェルの思想を発展させた作品を多く読みました。ウィンストン・スミスが最後には洗脳されてしまったように、真に恐れるべきは「監視社会」よりも「自意識の喪失」なのでしょう。 
 
1.ゲームの王国(小川哲) 上巻 下巻
内戦時代から近未来にかけてのカンボジアを舞台にして、ポル・ポトの隠し子とされる少女ソリヤと、貧村に生まれた天才少年ムイタックが対峙します。「生き延びるためのゲーム」に勝利した2人が理想とする社会は、実現可能なのでしょうか。意識の問題に踏み込んだSF小説に分類されていますが、物語性にも優れた作品です。
 
2.波(ソナーリ・デラニヤガラ)
2004年12月にスマトラ沖で発生した巨大地震による津波で、夫と2人の息子と両親を奪い去られた女性が、長い時間をかけて生きる力を取り戻そうとする精神的な闘いの記録です。癒しは簡単には訪れませんが、彼女は次第に、家族が実在していた記憶を取り戻していきます。逆説的ですが、ひたすら自分自身に語りかけた作品であることが、他者に届く作品になっているようです。
 
3.クロストーク(コニー・ウィリス)
「テレパシー」という手垢のついたテーマを、ソーシャル・メディアとの関連で新たに捉え直した作品です。70歳を過ぎた著者ですが、あいかわらず瑞々しい感覚に満ちています。コミカルな会話が突然シリアスな展開へと変貌していくテクニックは相変わらず超一流であり、そこに重要な伏線やミスリードも仕込んでいるのです。
 
【次点】
アメリカン・ウォー(オマル・エル=アッカド)
空白の五マイル(角幡唯介)
ハーモニー(伊藤計劃)