りぼんの読書ノート

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片桐酒店の副業(徳永圭)

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とある地方都市の一角に佇む古い酒店の2代目店主は、変わった副業を持っていました。それは「法に触れない限りは何でも」配達を請け負うという仕事。もちろん、酒の配達ついでに済ませられるようなものではありません。

 

アイドルにプレゼントを直接手渡して欲しいという、熱狂的ファンからの依頼。どこにいるのかわからない母親に手作りの工作を届けるという、幼い少年からの依頼。会社でいじめにあっている上司に対して「悪意」の配達を願う、女性事務員からの依頼。新婚旅行の思い出が詰まった壺を沖縄の海に捨てて欲しいという、離婚を決めた夫からの依頼。そして最後には遠い昔に少女から頼まれた、未来の自分への届け物を配達するのです。

 

ひとつひとつの難問を解決していく過程が楽しめる作品ですが、なぜ彼はこのような仕事をしているのでしょう。この副業が主人公の贖罪的行為であることが各章の合間に断片的に記されていきますが、彼もまた、届かない屈託を抱いている人物なのです。本書は、心に深い傷を持った者が、心を届けるという行為を媒介することで、再生していくというテーマを持っているのです。

 

ちょっと惜しい気がするのは、各章ごとに視点人物が変わっていってしまう点。主人公の一人称は使わず、たとえば第1章に登場したアルバイト学生の視点を貫いて、主人公の屈託を解き明かすような展開にしたほうが深みが出たように思います。

 

2019/5