りぼんの読書ノート

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パルプ(チャールズ・ブコウスキー)

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パルプ・フィクション」から採られたタイトル。ロサンゼルスという舞台。ニック・ビレーンという私立探偵の主人公。謎の美女による調査依頼。こう並ぶと「ハードボイルド」のようですが、本書は正統派に対するオマージュですね。荒唐無稽な展開は、むしろパロディといってもいいかもしれません。

 

「死の貴婦人」からの、40年前に亡くなっているはずの作家セリーヌの確保依頼。黒幕らしい人物からの「赤い雀」の捜索。葬儀屋をマインドコントロールしているという宇宙人美女の始末。大富豪からの妻の浮気調査。最後の1件以外は荒唐無稽ですが、それすら他の依頼と関わっていたのです。しかも死神美女も宇宙人美女も死んだはずの作家も、誤解や比喩ではなく、大真面目に登場してくるのですから、もはやメチャクチャ。

 

しかし本書を翻訳した柴田元幸さんは、後書きで「この本は、きわめて正統的なアメリカ文学ではないかという気もする」と述べています。マーク・トウェイン以来の伝統である「正統文学調を避けることが文学である」との方向性を究極まで推し進めたところに本書は位置しているというのです。

 

こういう視点に立つと、本書の評価は変わってきます。冒頭で本書は「正統派パルプフィクションに対するオマージュかパロディ」と述べましたが、最後に判明する「赤い雀」の正体を思うと、本書は挽歌なのかもしれません。おそらく、本書が遺作となった著者自身の人生に対しても。

 

2019/8