りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2024-04-01から1ヶ月間の記事一覧

よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続(宮部みゆき)

第9巻の『青瓜不動』を先に読んでしまったのですが、基本は中編集ですので問題なかったようです。「百物語」の聞き手である富次郎の兄・伊一郎が三島屋の跡継ぎとなるために予定より早く奉公修行から戻ってきた経緯と、前の聞き手であったおちかの妊娠と、…

愉快なる地図(林芙美子)

林芙美子をモデルとする架空の台湾旅行小説『台湾漫遊鉄道のふたり(楊双子)』を読んで、「旅する作家」としても有名だった著者の旅行記を読んでみました。2022年に新たな文庫版として編まれた本書には、1930年から1936年にかけて、著者が27…

ともぐい(河崎秋子)

2022年の直木賞候補作となった『絞め殺しの樹』を読んだ時には、やはり道東出身の先輩作家である桜木紫乃さんの亜流という印象を持ってしまったのですが、自然や野生を題材とする作品こそが著者の持ち味なのでしょう。さすが「元羊飼い」です。本書は明…

水車小屋のネネ(津村記久子)

舞台はおそらく長野県の南端に位置する田舎町。そこで暮らす人々と支え合いながら、1981年から2021年までの40年間を過ごす姉妹の物語は、読者を暖かい気持ちにさせてくれます。 18歳の理佐は、シングルマザーの母の恋人に進学費用を使い込まれて…

道連れ彦輔居直り道中(逢坂剛)

徳川11代将軍・家斉の時代。旗本の3男である鹿角彦輔の稼業は「道連れ」です。女子や年寄りが遠出をする折りに無事に行き帰りできるように付き添う仕事で、要するに用心棒。今回の仕事は、目付の要職に就いている旧友から依頼された、さる武家の娘・菊野…

ジャズ(トニ・モリスン)

アメリカ黒人文学を代表する著者がノーベル文学賞受賞直前の1992年に刊行した作品は、黒人音楽に源を持つジャズのリズムで表現されているとのこと。「これを翻訳で表現するのは不可能に近い」のでしょうが、物語の流れが音楽的であることは理解できます…

結婚のためなら死んでもいい(南綾子)

「三時のヒロイン」の福田麻貴さん主演でTVドラマ化された「婚活1000本ノック」が面白そうだったので、ドラマは未見ですが原作を読んでみました。とはいえ本書はドラマの原作となった作品を全面改稿・改題のうえで文庫化されたものですので、ドラマと…

百夜(高樹のぶ子)

小野小町は、紫式部や清少納言らによる王朝文化最盛期から100年ほど前に登場した才女です。「古今和歌集」の六歌仙に選ばれた和歌の名手であり、また美人の代名詞として、彼女の名前を知らない者などいないでしょう。しかし彼女の足跡は意外なほどに不確…

茜唄 下(今村翔吾)

平清盛の四男であり、平家棟梁となった兄の宗盛を補佐して源平合戦を闘い抜いた平知盛を視点人物とする「今村本平家物語」は、いよいよ佳境に入っていきます。「三国志」さながらの「天下三分の計」を実現させるために知盛が築き上げた必勝態勢はなぜもろく…

茜唄 上(今村翔吾)

この数年だけでも「平家物語」は「池澤夏樹編日本文学全集」に収められた古川日出男訳と「宮尾登美子本」を読みましたが、著者による新解釈は新鮮でした。勝者によって書き記されるはずの歴史が、なぜ敗者である平家の名が冠されているのか。それを遺して後…

ニッケル・ボーイズ(コルソン・ホワイトヘッド)

アメリカ南部から脱出する黒人奴隷たちの逃亡劇をファンタジーとして描いた『地下鉄道』の著者が、2度目のピューリッツアー賞を獲得した本書は、史実に基づくリアリズム小説でした。閉鎖されたフロリダ州の少年院学校から多数の遺骨が発掘されたことで、こ…

踏切の幽霊(高野和明)

『13階段』や『ジェノサイド』のイメージが強かったのですが、著者の本領は「社会派ホラーミステリ」で発揮されるのかもしれません。幽霊譚をがっつり中心に置いた作品です。 都会の片隅にある踏切で撮影された心霊写真。そこでは列車の非常停止が相次いで…

そこにはいない男たちについて(井上荒野)

夫のすべてを嫌いになってしまったまりは、友人の瑞歩に誘われて料理教室に参加します。そこは愛する夫を1年前に亡くした美日子が久しぶりに再開した、女性たちが少人数で交流する場でもありました。2人とも38歳で、まだまだ女盛り。まりはマッチングア…

台湾漫遊鉄道のふたり(楊双子)

昭和13年、林芙美子を思わせる作家・青山千鶴子は日本統治下の台湾に講演旅行に招かれて、通訳の王千鶴と運命の出会いを果たします。千鶴は少女のような外見にもかかわらず、現地の食文化や歴史に通じ、料理の腕まで天才的な女性でした。通訳・秘書・ガイ…

播磨国妖綺譚 伊佐々王の記(上田早夕里)

15世紀半ば、足利時代の播磨国を舞台として、平安時代の陰陽師・蘆屋道満の末裔である2人の青年を主人公とする呪術ファンタジーの第2弾。怪異が見える僧形の弟・呂秀と、見る才はないものの強力な術師である薬師の兄・律秀のコンビはバランスが取れてい…

クレイジー・リッチ・アジアンズ(ケビン・クワン)

貧しい中国系移民の娘ながら、ニューヨーク大学の経済学教授となった29才のレイチェル・チューは、シンガポール出身の同僚ニック・ヤングと恋愛中。彼が幼馴染の親友コリン・クーの結婚式で付添人を務めることになって、一緒にシンガポールで楽しい夏休み…

宮尾本平家物語 4(宮尾登美子)

いよいよ平家の栄枯盛衰を綴った長い物語も終わろうとしています。安徳天皇を連れて都落ちした後の平家は四国屋島に内裏を建て、 備中水島で木曽義仲軍に大勝。播磨室山でも源行家軍を破って京へ帰還する勢いを見せますが、それも源義経が登場するまでのこと…

宮尾本平家物語 3(宮尾登美子)

福原遷都の失敗、源頼朝や木曽義仲の挙兵、さらに平清盛病死と、栄華を誇った平家一門の没落が始まります。まずは年表を記しておきましょう。 1180年6月 福原遷都 1180年8月 文覚から平家追討の院宣を受けた源頼朝が伊豆で挙兵 1180年10月 …

宮尾本平家物語 2(宮尾登美子)

保元・平治の戦いに相次いで勝利をおさめた平清盛は、武士として栄華の絶頂を極めていきます。乱の直後には正三位の参議に、数年後には従一位・太政大臣に叙せられるのです。その一方で、妻・時子の妹で後白川上皇の女御となっていた建春門院・滋子が男児を…

宮尾本平家物語 1(宮尾登美子)

大河ドラマで紫式部を主人公に据えた「光る君へ」が放送される2024年は「源氏物語」の年になるのではないかと思われます。フィクションである「源氏物語」の現代語訳や翻案した作品を著した女性作家が多い一方で、「平家物語」は少々影が薄い。待賢門院…