りぼんの読書ノート

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ニッケル・ボーイズ(コルソン・ホワイトヘッド)

アメリカ南部から脱出する黒人奴隷たちの逃亡劇をファンタジーとして描いた『地下鉄道』の著者が、2度目のピューリッツアー賞を獲得した本書は、史実に基づくリアリズム小説でした。閉鎖されたフロリダ州の少年院学校から多数の遺骨が発掘されたことで、これまで隠蔽されてきた死に至る虐待の事実が明るみに出された事件を発信する目的で書かれた作品なのです。小説なので学校名は架空の「ニッケル校」とされていますが、重要なのはこのような場所は決してひとつやふたつではなかったということなのでしょう。

 

本書の主人公は、1960年代前半にフロリダ州北部のタラハシーに暮らすアフリカ系アメリカ人のエルウッドです。両親がカリフォルニアに去った後、祖母によって育てられた少年は、人種差別の事実を目の当たりにしながら公民権運動に夢を託している高校生です。学業の優秀さを認められて地元大学の授業を体験受講するはずだった日に起こったアクシデントによって、彼の行先は少年院になってしまいました。そこで彼を待っていたのは人種差別の縮図であり、それよりも酷い懲罰でした。社会変革の可能性を信じるエルウッドは、シニカルな皮肉屋ターナーと出会って、脱出を試みるのですが・・。

 

物語の冒頭は21世紀の現代であり、ニューヨークで事業を営んでいるエルウッドが、過去を告発する決意をする場面から始まっています。彼の正体が物語に深みを与えてくれますが、そのあたりは「読ませるための工夫」なのでしょう。本書の目的は、制度化された人種差別の邪悪さであり、理由のない暴力の存在であり、心に傷を負った人々が立ち直る困難さを描くことにあったのでしょうから。

 

2024/4