りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 1(ブレイディみかこ)

アイルランド系の英国人男性と結婚して、ブライトンという海辺の町で保育士もしているライターの著者が、中学生の息子と一緒になってさまざまな問題を考えていくノンフィクション。2019年の本屋大賞「ノンフィクション本大賞」も受賞しています。

 

公立ながらカトリックの名門小学校に通っていた息子が進学した先は、「元・底辺中学校」。生徒の自主性を重んじる校長の教育方針の成果で「底辺」は脱したものの、そこは世界の縮図のような学校でした。人種も貧富も学力もごちゃまぜな世界に放り込まれた11歳の少年は、そこでさまざまな壁にぶち当たるのです。人種差別丸出しの美少年、ジェンダーに悩むサッカー小僧、貧しく取り残された白人家庭の少女、犯罪やドラッグに走る上級生。そして世界中で共通のイジメの問題。保守党政権が福祉を切り捨て、ブリグジットに揺れる世相だって子供の世界に反映されてしまいます。日本にいても人種やアイデンティティや貧富の問題からは逃れられないのですが、そこでは毎日が「渦中」です。

 

そもそも「イエローでホワイトで、ちょっとブルー」というタイトル自体が、黄色人種と白色人種の混血であることについて、息子がノートの隅に落書きした言葉だというのです。英国では「チンク」と言われ、日本に行けば「ガイジン」と言われる息子は、何でもないようでいてやはり悩んでいたようです。もっとも息子は「ブルー」の意味を誤解していたようなのですが、その言葉を記したのが「ブルー」の正しい意味を知る前だったのか、どうか。著者はまだ聞き出せていないというのですが、どうなのでしょう。

 

しかし息子は戸惑っているだけではありません。人種・女性・階級的な差別発言をしばしばしていた級友が、クラスの中でイジメの対象になった時に、息子は言うのです。「イジメに参加しているのは、彼から何も言われたことも、されたこともない、関係ない子たちであることが気持ち悪い」と。そして「人間は人をイジメるのが好きなのではなく、罰するのが好きなんだ」と。1年半後に自分の未熟さを認識して、「いまはブルーではなくて、ちょっとグリーン」と言う息子は、間違いなく成長しているのです。

 

2023/7