りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

空高く(チャンネ・リー)

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最後の場所でのハタは、「日本人として育ってアメリカに帰化した韓国人」でしたが、本書の主人公ジェリーはイタリア系移民の家系。

ただし亡くなった妻デイジーが韓国系、妻の死後につきあった恋人リタがプエルトリカン。さらに息子ジャックの妻ユニースはイギリスとドイツのハーフ、娘テレサの恋人ポールは韓国系と、まるで人種のモザイクのような一家ですが、人種問題がテーマではありません。

家業の造園会社を息子に譲って引退した、59歳のジェリーの楽しみは軽飛行機の操縦。「愛機から見下ろすと、人生の憂さなど存在しないかのよう」に思うジェリーでしたが、それは彼のこれまでの生き方を象徴しているかのようです。彼は差し出されるものだけを受け取って、責任を取る決断を避け続け、うわべだけを取り繕ってきた人間なのですから。

しかし彼の責任を取らない生き方は、時として周囲の者を不幸にしていたのです。異国の生活に疲れた妻が徐々に壊れていくのを放置して、最後には自殺されてしまい、その後の恋人で、子どもたちの母親代わりとなってくれたリタには結婚を持ち出すこともないままに去られてしまい、息子や娘も父親には本心を明かそうとしてくれません。

しかし、そんな生き方をしていたジェリーに「家族の危機」が一気に押し寄せてきます。恋人に去られたことは既に述べましたが、息子に引き継いだ事業は破産寸前となっており、老いて施設に預けた父親は失踪してしまい、結婚を控えた娘は重病に罹って、死を覚悟で子どもを産もうとしているというのですから。初老のジェリーに「決断の時」が迫ります。

ひとりひとりが孤立していく方向にある現代社会では、老いや孤独の問題が今まで以上に厳しさを増して圧し掛かってきています。その中で絆を再生することができるのか。決して他人事ではありません。

2010/11