新潮文庫版では、各短編集から割愛された作品を集めた『叡智』がこの後に続くのですが、実質的にこれがシリーズ最終巻となります。『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』でホームズを退場させたのに、読者はそれを許さなかったために書き継がれた作品群です。
白面の兵士:南アフリカ帰りの戦友ゴドフリーを訪ねたジェームズが、いるはずの旧友に会わせてもらえなかったのには理由がありました。ホームズが自ら書いた形式の作品です。
マザリンの宝石:悪漢シルヴィアス伯爵が肌身離さず持ち歩いている盗品のダイアモンドをホームズが鮮やかに奪い取ります。窓際の蝋人形が活躍するのは2作めですね。
三破風館:老夫人の住むみすぼらしい館を、金に糸目をつけずに買い取りたいという美女イザベラ・クラインの申し出の理由は? 恋やつれで死んだダニエルは気の毒でしたが・・。
サセックスの吸血鬼:赤ちゃんの首筋から血を吸っていたファーガスン氏の細君は吸血鬼? 後妻の身では、愛する夫の連れ子を非難することはできないのでしょうね。
ソア橋:アメリカの金山王ギブスン氏の細君を殺害したのは、愛人の噂がある家庭教師のダンバー嬢なのでしょうか。これはダンバー嬢を憎んで自殺した細君が最後に仕掛けた罠。妻子ある男との「精神的なつながり」なんて信用してはいけません。
這う男:61歳で若い令嬢と再婚が決まったプレスベリー教授は、どうして愛犬のロイに噛み付かれたのでしょう。あやしげな薬に頼ってはいけません。
ライオンのたてがみ:鞭で打たれたようなみみずばれを遺して急死した青年の死因は? 彼が遺した「ライオンのたてがみ」という言葉の謎は意外なものでした。
覆面の下宿人:決してヴェールをとらない謎の下宿人の正体は、以前ライオンに殺害されたサーカス興行師ロンダーの妻だったのです。そして、その事件は報道された通りのものではありませんでした。
後期になるほど面白みが薄れていくとも言われるシリーズですが、さまざまなテクニックが使われていて楽しく読めました。初期の作品よりも「人情」や「愛情」に絡むような作品が増えているように思えるのは気のせいでしょうか。ホームズには「文学」や「哲学」の知識はないはずですけどね。^^
いよいよ次は「最終巻」の『叡智』です。全10巻を読み終えるのが惜しくなります。
2010/11