りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2022/4 Best 3

1. 眠りの航路(呉明益)ウー・ミンイー 不思議な睡眠障害の治療のために日本を訪れる主人公は、著者の分身です。彼は生涯寡黙だった父親が語ることのなかった過去を追体験していくことになります。それは太平洋戦争末期に少年工として日本に渡った父親の…

鯖猫長屋ふしぎ草紙 6(田牧大和)

かつての義賊「黒ひょっとこ」で今は画描きの青井亭拾楽が、鯖縞模様が美しいオス三毛猫サバと長屋で暮らす、ちょっと不思議なお江戸ミステリの第6弾。次々と秀逸なアイデアで新しい物語を紡ぎ出している著者にとって、シリーズ最長記録になります。ちなみ…

鯖猫長屋ふしぎ草紙 5(田牧大和)

かつての義賊「黒ひょっとこ」で今は画描きの青井亭拾楽が、鯖縞模様が美しいオス三毛猫サバと長屋で暮らす、ちょっと不思議なお江戸ミステリの第5弾。この長屋で暮らしていた弟分を亡くしている拾楽は、ここで「誰か」を待っているようなのですが、その謎…

時計じかけのオレンジ(アントニイ・バージェス)

スタンリー・キューブリック監督による映画化作品を見たことがありますが、あまりの暴力描写の激しさにうんざりした覚えがあります。本書はその原作ですが、エンディングが違っていますね。 近未来(といっても本書が書かれた1962年からみての近未来なの…

小樽運河ものがたり(田村喜子)

小樽の街を訪れたのはもう10数年まえのことになりますが、運河に面したホテルに泊まって、運河のほとりに巡らされた散策路を巡ってきました。今でこそ水辺に面した遊歩道は珍しくありませんが、これが設計された半世紀近く前には斬新なアイデアだったよう…

あきない世傳 金と銀10 合流篇(高田郁)

前巻では、江戸での商売を軌道に乗せつつあった幸が大きな逆風に襲われました。実妹の結が商売敵の音羽屋に嫁いでライバルとして立ち現われたことに加えて、絹織物を扱う呉服商の同業組合から外されたことで呉服商いを断念せざるを得なくなってしまったので…

家族じまい(桜木紫乃)

放任されてきた子は、老いてきた親にどうやって接したら良いのでしょう。「墓じまい」のように「家族じまい」ということは可能なのでしょうか。著者は本書のタイトルについて、家族と絶縁するとか整理するとかの「終う」ではなく、改めて振り返って整理する…

詐欺師の楽園(ヴォルフガング・ヒルデスハイマー)

1916年にドイツ・ハンブルクで生まれた著者は、イギリスで教育を受け、イギリスの委任統治領であったパレスチナやロンドンで働いていたこともあって、第二次大戦ではイギリス軍の将校であったという不思議な経歴の持ち主です。戦後にドイツで著作活動を…

チンギス紀 11(北方謙三)

モンゴルと金国がついに開戦。弟や息子たちと共に大軍で長城を超えたチンギスは、金国内に陣を構えます。対する金国は定薛を総帥とする防衛軍を組織して福興が軍監に就くものの、官僚組織の弊害によって将軍の思うような戦いをさせてもらえません。それどこ…

眠りの航路(呉明益 ウー・ミンイー)

先にエクスリブリスから出版された『神秘列車』は、かつて台北にあったオールドスタイルの巨大ショッピングセンター街「中華商場」で育った著者が少年時代の思い出を幻想的に描いた作品でした。それに続く本書は、やはり著者の分身と思しき主人公が、生涯寡…

冬(アリ・スミス)

英国のEU離脱投票を受けて開始された「四季4部作」の『秋』に続く第2作ですが、この1冊だけでも十分に楽しめます。各作品はそれぞれ独立しており、一部の登場人物が少しだけ重複しているだけですので。本書の舞台となるのは2016年冬のコーンウォー…

ウエスト・サイド・ストーリー(アーヴィング・シュルマン)

『ロミオとジュリエット』の翻案でありながら、1950年代のニューヨークの状況を反映することで、時代を超える人気を獲得した作品になりました。1957年にブロードウェイで初演された後に、1961年と2021年の2度に渡って映画化されています。…

北海道浪漫鉄道(田村喜子)

「土木ノンフィクション」というジャンルを設定するならば、著者はその第一人者でしょう。『黒部の太陽』や『砂の十字架』の木本正次氏が描いた分野は土木に留まっていませんが、著者は最後まで土木分野に固執しています。 本書の主人公である田辺朔郎は、『…

熱源(川越宗一)

2019年の直木賞受賞作は、帝国主義の時代に日本とロシアの間で所有権が揺れ動いた樺太(サハリン)を舞台として、国家と民族と個人のあり方について問いかけた作品でした。主人公である樺太生まれのアイヌ、ヤヨマネクフ(和名:山辺安之助)は実在した…

恋愛未満(篠田節子)

いい年をした大人の恋愛は難しい。別に不倫とか特段の事情がなくても、いやない場合こそ難しそうな気がします。失うものの少ない若いころと違って、社会的地位とか、分別とか、他人の視線とか、一途な恋愛にのめりこめない余計なものがついてくるのです。だ…

虹をつかむ男(ジェイムズ・サーバー)

1894年にオハイオ州コロンバスで生まれ、シカゴやニューヨークで記者、編集者、挿絵画家とした後に専業作家となった著者による短編集です。表題作は1947年にダニー・ケイ主演で、2013年にベン・スティーラー主演で2度に渡って映画化されていま…

小鳥はいつ歌をうたう(ドミニク・メナール)

母親の「わたし」が読み書きできないのは、言葉というものが裏切り者であると幼い頃に知ってしまったため。童話を読み聞かせてくれている最中に、祖母が脳梗塞で倒れてしまったのです。まだ文字を知らなかった幼女は、その童話がどう終わるのかを知りません…

極北へ(石川直樹)

著者は人類学、民俗学などの領域に関心を持つ写真家で、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら作品を発表し続けている人物です。そんな著者が20歳の時のデナリ山登頂を出発点として、アラスカ、グリーンランド、カナダ、ノルウェー、そして2度目のデ…

幻想商店街(堀川アサコ)

この世とあの世のあわいに存在する場所を描く「幻想シリーズ」も9作目になりました。これまでの郵便局、映画館、日記店、探偵社、温泉郷、寝台車、蒸気船に続く境界エリアは商店街。ここ「世界のヘソ商店街」の中心にあるのは一軒のギャラリーであり、そこ…

ウォーターダンサー(タナハシ・コーツ)

著者の名前から日系の方かと想像していたら、全然違いました。姓は「Coates」で名が「Ta-Nehisi」というアフリカ系アメリカ人のスポークスパーソン的な人物で、差別についての鋭い考察を示してきた方だそうです。これまで回想録やノンフィクション、評論を書…

エチュード春一番 第3曲 幻想組曲「狼」(荻原規子)

普通の女子大生・美綾のもとに子犬モノクロの姿で神が顕現した物語は、過去へと向かいます。きっかけは美綾が「将門記」を読んだこと。当時はオオカミ姿で顕現していたという神は、平将門という名前の人物を記憶していたのです。時間を遡れる神は本来、記憶…

結 妹背山婦女庭訓波模様(大島真寿美)

2019年の直木賞を受賞した『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』の続編というよりも、姉妹編ですね。前作の主役であった近松半二の死後も、人形浄瑠璃の魅力に魅せられて、人形浄瑠璃とともに生きた人々の群像劇。多くの人々が登場しますが、陰の主役は半二の娘の…

ビンティ(ンネディ・オコラフォー)

「アフリカン・ヒューチャリズム」の若き旗手である著者は、ナイジェリア出身の両親を持つオハイオ生まれのアフリカ系アメリカ人です。奴隷として欧米に連れてこられた過去を引きずることなく、よりアフリカ本来の視点や文化に根差した未来を描くということ…

紅霞後宮物語 第0幕5(雪村花菜)

古代中国を思わせる架空の歴史の中で、伝説の軍人皇后となった関小玉の生涯を描くシリーズは、皇后になってからの本編と、皇后になるまでの前編からなっています。「第0幕」は前編なのですが、いよいよ本編に近づいてきました。もっとも著者はこちらが「本…