りぼんの読書ノート

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家族じまい(桜木紫乃)

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放任されてきた子は、老いてきた親にどうやって接したら良いのでしょう。「墓じまい」のように「家族じまい」ということは可能なのでしょうか。著者は本書のタイトルについて、家族と絶縁するとか整理するとかの「終う」ではなく、改めて振り返って整理する「仕舞う」だと述べています。著者自身の家族と同じ恒星だという登場人物たちには、著者自身の感情も織り込まれているのでしょう。

 

第1章の「智代」は札幌で暮らす48歳。子供が巣立ち夫との2人暮らしが始まったところで、夫の後頭部に円形脱毛症を発見。そんな時に疎遠にしていた妹から「母親のサトミが惚けてしまったらしい」との電話が架かってきます。実家がある釧路に赴き、時に暴力も振るって家族を振り回してきた父親の猛夫と久しぶりに再会するのですが・・。

 

第2章の「陽紅(ようこ)」は、智代の夫の弟と結婚をすることになる帯広の28歳の女性。時代錯誤的な歳の差婚であるにもかかわらず周囲から祝福されてまんざらでもないのですが、思わぬ落とし穴もありました。5回も結婚を経験した陽紅の母親のキャラがいいですね。見方によっては毒親かもしれませんが、このくらいドライなほうが良い関係を続けられるのかもしれません。

 

第3章の「乃理」は函館に住んでいる智代の妹ですが、いい母、いい妻、いい娘でいたいと思うほどに不満が溜まってくることを自覚しています。そんな時に、釧路の父親が惚けた母親を連れて函館に引っ越してくるというのです。問題を抱えた2世代での暮らしはうまくいくのでしょうか。

 

第4章の「紀和」は、智代の両親が最後の旅行として乗り込んだ名古屋行きのフェリーで演奏するサックス奏者であり、唯一の部外者です。著者は、このくらいの距離感がある関係でないと、82歳になるまで好き勝手に生きてきたプライドの高い猛夫は、失敗続きだった自分の人生を振り返る本音を語らないだろうと考えたとのこと。他人だから話せるし、理解できることもあるのです。

 

第5章の「登美子」は阿寒で一人暮らしをしている82歳のサトミの姉で。2人の娘から薄情な母親と思われ、長女からは絶縁を宣言され、次女は消息も定かではありません。妹のサトミを見舞った際に、「忘れてよいものは、老いと病の力を借りてちゃんと肩から落ちてゆくようになっているのかもしれない」と感じるのですが、これは認知症の母親を持つ著者の実感ですね。著者は本書で「介護前夜」を描いたとのことですが、客観的に見るなら、この家族の状態は「前夜」どころではありません。しかし何かを「仕舞い」終えなければ、施設に委ねるという判断もしかねるケースも多いのでしょう。

 

2022/4