りぼんの読書ノート

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詐欺師の楽園(ヴォルフガング・ヒルデスハイマー)

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1916年にドイツ・ハンブルクで生まれた著者は、イギリスで教育を受け、イギリスの委任統治領であったパレスチナやロンドンで働いていたこともあって、第二次大戦ではイギリス軍の将校であったという不思議な経歴の持ち主です。戦後にドイツで著作活動を開始した著者は、小説・エッセイ・戯曲・ラジオ・テレビなどの分野で多彩な活動を行いましたが、本書はロマン小説として1953年に発表されています。

 

絵画の贋作というのは、確かにロマンを感じるテーマです。贋作を売りつける詐欺師の才能と、贋作を作り上げる美術的才能が必要とされるのです。本書は匿名の語り手が、天才的贋作者で詐欺師でもあった叔父のローベルトのペテンを暴いていく物語。ローベルトはどのようにして、架空の天才画家を生み出し、その巨匠の作品として世界各地の美術館に名画を売り込んでいったのでしょう。美貌の女スパイと手を組んで、財政難に苦しむ小公国を全面的に巻き込んだ詐欺のテクニックは天才的です。

 

語り手が叔父に造反するのは、彼自身が夭折した天才画家として祭り上げられ、あやうく実際に殺害されそうになった事件のせいでした。両親に目覚めた彼の家庭教師と組んで、天才的詐欺師のローベルトをペテンにひっかけていく手口は、さすがに血筋としかいいようがありません。ビカレスクロマンとしても優れた作品ですが、戦後ヨーロッパが陥った軽薄な商業主義に対する批判も感じ取れます。良くも悪くも時代性が現れているのです。

 

2022/4