りぼんの読書ノート

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チンギス紀 11(北方謙三)

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モンゴルと金国がついに開戦。弟や息子たちと共に大軍で長城を超えたチンギスは、金国内に陣を構えます。対する金国は定薛を総帥とする防衛軍を組織して福興が軍監に就くものの、官僚組織の弊害によって将軍の思うような戦いをさせてもらえません。それどころか内紛が起きてしまう始末。内紛を生き残った福興は、かつての名将・完顔襄の甥である完顔遠理に金軍を委ねます。モンゴルではこれまで父チンギスに物怖じしていたような長男ジョチが成長を見せています。

 

チンギスが梁山湖に立ち寄る場面が本巻のハイライト。かつて梁山泊だった場所に惹きつけられたものの、「そこで生み出された新しいものは、世のさまざまなところで生きているかもしれないが、かたちとしてはもうない」と断じたチンギスは、自分が今作り出そうとしている新しいものも明日には過去になることを意識します。そして「夢だけがいつも新しい」と断じるのです。このような形で遺志が継承されることは、かつて梁山泊に集った者たちにとっても本意かもしれません。

 

西方では、ホラズムの皇子ジャラールッディーンが、ジャムカの息子マルガーシらと共にサマルカンドに戻ります。そこではゴール朝との戦争の機運が高まっていました。モンゴルとの死闘は、もう少し先のことになります。その途上にある西遼では、ナイマン国の王子であったグチュルクが耶律直魯古から王位を簒奪。カシュガルの村に身を潜めていたケレイト王の末弟ジャガ・ガンボは、どう動くのでしょう。

 

一方でチンギスの意を受けたボオルチェはチンカイに命じて、ケムケムジュートの南方に単なる駅ではなく、城と言えるような大城塞の建設を始めさせます。チンカイが山羊の髭や貴石を扱って商売を始め、建設資金を得ていくくだりは、交易を変革の糧として捉える北方史観らしいもの。残虐な侵略戦争は別として、ユーラシア大陸の西から東までの交易路を築いたモンゴルの功績は大きいのです。モンゴル帝国の大拡大が始まろうとしています。

 

2022/4