りぼんの読書ノート

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サロメ(原田マハ)

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世紀末のイギリスに彗星のように現れて夭折した、悪魔的なタッチのペン画家のオーブリー・ピアズリー。悪徳とスキャンダルで知られる詩人のオスカー・ワイルド。フランス語版『サロメ』の文章と挿絵で奇跡的な出会いを果たした2人の鬼才を巡る愛憎劇が、オーブリーの姉であるメイベルの視点から語られていきます。

2人を出会わせたのは、天才的だが病弱な弟を庇護しながら、女優への野心を抱いていたメイベルでした。しかし『サロメ』を巡る2人の物語は、やはりメイベルによって暗転していきます。彼女は弟の気持ちを捉えたワイルドを憎む一方で、ワイルドに認められた弟に嫉妬していたのです。彼女の複雑な気持ちは、もちろん、ワイルドが両性愛者であったことと無関係ではありません。

その結果、オーブリーは結核を悪化させて命を縮め、ワイルドは投獄されて世間から忘れられていきます。サロメによって洗礼者ヨハネは死を賜り、ヘロデ王は罪を犯すこととなったことと対応していますね。妖女サロメを具現する女性を創り上げたことで、耽美的で退廃的な世紀末芸術のイメージを文章に再現した意欲的な作品です。

少々惜しいと思えるのは、メイベルが策をめぐらせ過ぎたこと。魔性の女「ファム・ファタール」は、自然体のままで男たちを破滅させる存在であって欲しいものです。

2018/3