りぼんの読書ノート

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待ち望まれし者 下(キャスリン・マゴーワン)

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下巻ではついに「マグダラのマリア福音書」の内容が紹介されます。しかも「小説の中の小説」といっても良いくらい、詳細に記されているのです。私の経験上、「古代の秘密を探求する物語の面白さは秘密の内容に比例するものであり、面白い場合でもその内容は詳しくは描かれない」というのが通常なのですが、ここまで書いてしまってなおかつ面白いのですから、著者の力量は凄い。これは信念の力なのでしょうか。 

 

マグダたのラのマリアとはどのようか出自の女性なのか。彼女と洗礼者ヨハネの関係はどのようなものだったのか。「カナの婚礼」とは誰と誰の結婚式だったのか。サロメはなぜ洗礼者ヨハネの首を求めたとされたのだろうか。ユダに与えられた使命とは何だったのか。この物語の中では、ピラト婦人のクラウディアや、ヘロデ王の娘サロメなど、新約聖書に登場する女性たちが果たした役割も見直されていきます。 

 

本書を翻訳した山城咲子さんは、「本書はキリスト教の本質をかなり鋭く衝いた問題を提示している」と述べています。本書が書かれたのはジョージ・ブッシュが大統領であった2006年のことですが、アメリカのキリスト教徒で多数派を占める保守的な福音主義教派の多くは進化論を認めず、同性愛や中絶を禁止し、異教徒を拒むのです。そしてその多くが共和党支持者であり、現在ではトランプの支持基盤となっているのです。本書はそんなキリスト教の在り方に大きな疑問を投げかけています。 

 

本書の続編として、イエスが自ら書き記したという福音書が登場する『愛の書』と『詩聖の王子』という作品も、既に翻訳出版されています。面白そうですが、おなかいっぱい感もあるので、少し時間をおいてから読んでみましょう。 

 

2020/4