りぼんの読書ノート

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生命の樹(マリーズ・コンデ)

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選考委員の不祥事によって見送られた2018年のノーベル文学賞の代替賞を授賞したのは、フランス海外県グアドループ島出身の女性作家でした。本書は、彼女の故郷であるカリブ海島嶼を舞台とするルイ一族の物語。語り手は一族の4代目にあたる、1960年に生まれた女性ココ。 

 

物語は1904年、ココの曾祖父アルベールがまだ誰の先祖でもなかった32歳の時、パナマ運河の建設労働者となるために島を飛び出して始まります。さらにサンフランシスコに渡って一旗揚げて島に戻りmすが、パナマ滞在中に結ばれた愛妻ライザは一人息子ベールを遺して病死。若いエライーズと再婚したアルベールは、ライザの霊の嫉妬に悩まされます。 

 

アルベールとエライーズの間に生まれた堅実なジャコブは、父親の事業を継いで島の黒人ブルジョワ階級の仲間入りを果たします。しかし彼の世代は、独立運動に翻弄されていくことになるのです、その一方で異母兄ベールは、フランス留学中に白人女性と結婚したことで、黒人主義思想に凝り固まった父から勘当されてしまい、失意の中で自殺してしまいます。 

 

ルイ一族にとって白人の配偶者は鬼門のようです。ジャコブの一人娘のテクラもまた、パリ、ロンドン、ニューヨークを放浪して多くの男性遍歴を重ねた後で、2人の白人男性を愛人に持つのです。祖父アルベールの三角関係は亡くなった前妻を交えたものでしたが、こちらはリアルな関係。テクラが生んだ娘ココは、育児放棄された状態で育ちます。そんなココが一族の歴史を「発見」して、祖先たちの生命を引き継いでいることを自覚するまでの経緯が、本書の基本構造と言えるでしょう。 

 

ココが「悪辣な生」と呼ぶ一族の系譜は、猥雑であるものの、人種問題、階級問題、独立問題に揺れたグアドループの20世紀を生き抜いた生命の力強さに溢れています。そしてそこから浮かび上がって来たものは、ヨーロッパの宗主国や近隣大国アメリカによって政治的にも言語的にも分断されながら、それを超えていくカリブ諸島の人々の開放性であるように思えるのです。 

 

2020/4