パオロ・ジョルダーノさんの真摯なエッセイ『コロナの時代の僕ら』が緊急出版されました。ネットで無料先行配信されていたので、読んだ人も多いのではないでしょうか。母国イタリアの混乱の中でに人々の関わり方が決定的に変わってしまったことを悲しみながら、「すべてが終わった時、本当に僕らは以前とまったく同じ世界を再現したいのだろうか」と訴える内容は切実です。私たちは、この混乱の最中に起きたことを忘れてはいけないのです。自分自身の心の在り方も含めて。
1.生命の樹(マリーズ・コンデ)
中止になった2018年のノーベル文学賞の代替賞授賞者による、カリブ海の島嶼を舞台とした一族の大河物語。初代アルベールの曾孫娘ココが再発見する一族の歴史は、独立運動と人種問題に翻弄されながら、海峡も国境も超えてたくましく生きた人々の物語でした。南米文学の要素を含みながら、より開放的に思えたのは、ココが「悪辣な生」と呼んだカオス的猥雑さのせいなのでしょうか。
2.椿宿の辺りに(梨木香歩)
祖先も関わった自然環境の歪みが、遠く離れた子孫にもたらした痛みを、癒すことは可能なのでしょうか。「海幸山幸の神話的な世界が、自然の摂理とあいまって重層的な物語となっていく」などと紹介しても、意味不明ですよね。『f植物園の巣穴』の姉妹編ですが、独立した物語としても楽しめます。
3.黄金列車(佐藤亜紀)
第二次世界大戦の末期。ソ連軍の侵攻を怖れたハンガリー政府が、ユダヤ人から押収した財産を国外に移すために運行したのが「黄金列車」。4か月間オーストリア国内を迷走し、チロル山中にたどり着いた列車で運ばれた財産を守り通したのは、実直で有能な官僚たちだったのです。著者独特の、背景説明や感情描写を徹底的に削ぎ落した文体も健在です。
【別格】
・コロナの時代の僕ら(パオロ・ジョルダーノ)
【その他今月読んだ本】
・カステラ(パク・ミンギュ)
・ひみつのしつもん(岸本佐知子)
・おもてなし時空ホテル(堀川アサコ)
・おもてなし時空カフェ(堀川アサコ)
・待ち望まれし者 上(キャスリン・マゴーワン)
・待ち望まれし者 下(キャスリン・マゴーワン)
・あさ美さんの家さがし(黒野伸一)
・なんらかの事情(岸本佐知子)
・偶然仕掛け人(ヨアブ・ブルーム)
2020/4/30