りぼんの読書ノート

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コロナの時代の僕ら(パオロ・ジョルダーノ)

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日本よりも先行して新型コロナ禍に苦しんでいるイタリアの小説家によるエッセイが、緊急出版されました。素粒子物理学者でもある著者の『素数たちの孤独』はエゴイストの男女たちのに悲恋物語で少々辟易した覚えがありますが、本書は著者の切実な思索が率直に表現された、素晴らしい作品です。著者は、母国の混乱の中で何を考えたのでしょうか。 

 

新型ウイルスの流行が私たちの人間関係にすでにダメージを与えており、多くの孤独をもたらしていることは、すでに世界共通の認識になっています。著者は、詩人ジョン・ダンの「誰もひとつの島ではない」という言葉を引用していますが、人々のネットワークを介しての爆発的な感染は、その言葉に新たな暗い意味を付与してしまったようです。そしてそれを防ぐには、人々の物理的な繋がりを断ち切るという非人間的な行為が求められているのです。 

 

そして著者は「すべてが終わった時、本当に僕らは以前とまったく同じ世界を再現したいのだろうか」という問いを投げかけます。著者が作っているという「忘れたくない物事のリスト」には、献身的な人々の存在と彼らへの支援という美しい光景もあるのですが、ネガティブなことも多いのですから。そこには、初期の控えめな対策に対する嘲笑や、感情的でいい加減な情報の伝播や、移民たちへの不親切などの項目と並んで、「パンデミックのそもそもの原因が、自然と環境に対する人間の危うい接し方、森林破壊、軽率な消費行動にこそあること」とあるのです。 

 

その背景には「ウイルスは人口爆発と環境破壊が生んだ難民である」という認識があるわけです。某大国の大統領が環境保護を訴える少女を嘲笑したように、自然への認識と対応の違いがあたかも政治的立場の違いにすぎないと矮小化していた世界が「以前の世界」であるならば、もはやそこに戻れないはず。 

 

しかし現実は異なるのです。この危機をアピールの場にする政治家、既に始まっている復興時の利権の奪い合い、いたずらに危機感をあおるマスコミ、自分勝手な振る舞いに及ぶ人々・・。私たちが「忘れるべきではない物事のリスト」は長くて情けないものになってしまいそうです。しかし今後も長く続くであろう忍耐の時期においても、ひとりひとりがそれを覚えておくことで、何かをより良い方向に変え得るであろうとを期待したいものです。 

 

2020/4