りぼんの読書ノート

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オスカー・ワイルドとコーヒータイム(マーリン・ホランド)

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「コーヒータイム人物伝」シリーズの一冊。このシリーズは、過去の著名人とリラックスした雰囲気で会話するという設定で、わかりやすく人物像に迫るというもの。もちろん空想ですが、回答はその人物の著作や記録から引用されているので、かなり核心に迫っているのでしょう。これまで、アインシュタインシェイクスピアニュートンミケランジェロモーツアルトが発刊されています。 

 

本書でインタビュー役を務めるマーリン・ホランドは、ワイルドの血を引く唯一の孫にして祖父の業績の研究者でもあるため、ワイルドの人物像に鋭く迫るにもっともふさわしい人物でしょう。 

 

しかし、オスカー・ワイルドとは、なんともわかりにくい人物です。『ドリアン・グレイの肖像』や『サロメ』などの作品で知られる19世紀末の耽美的文学者ですが、彼自身の生き方や社交界での警句のほうが有名かもしれません。本書でも「主役は作品でなく人生」と語らせているほど。 

 

1854年にダブリンで生まれ、20歳でオクスフォードに入学。ギリシア語に堪能で、24歳で長詩『ラヴェンナ』で認められるという早熟の天才です。ロンドンの社交界で芸術家・俳優・女優・貴族らと交際を深めますが、定職についたのは30歳で結婚した後に女性誌の編集を2年間務めたのみ。36歳で代表作『ドリアン・グレイの肖像』を著わすまでは執筆活動も盛んではなく、講演と持参金で派手な生活をおくっていたのでしょう。 

 

その後の数年間に創作活動のピークを迎えますが、それも長くは続きませんでした。41歳の時に当時あった男色罪で2年間服役。破産したうえに、妻との関係も破綻してしまいます。出獄後もイギリスでは受け入れられず、友人たちの世話になりながら欧州各地を転々とした後に、パリで46年歳の生涯を終えています。その後何年間もイギリスでは、オスカーと名付けられる子供はいなくなるほどの悪名を遺して・・。 

 

そんなワイルドの魅力とは、いったい何だったのでしょう。「スタイルで生きることの先駆者」だったからではないかと思うのですが、いかがでしょう。数多い彼の警句の中から、ひつとだけ紹介しておきましょう。「人生を知らない間にものを書いた私は、いったん人生の意味を理解したときには、もう書くべきものがなくなっていた。人生は生きるべきものであって、書くべきものではない」。深いです。 

 

2020/5