りぼんの読書ノート

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かの名はポンパドール(佐藤賢一)

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ルイ15世の寵姫であったポンパドール侯爵夫人といえば、フランス・ロココをを代表する美女であり、王室財産を浪費してフランス革命の遠因を作った女性として知られています。フランス歴史小説の第一人者である著者が、彼女の本質に迫ります。

平民という身分ながらブルジョワ階級の娘として生まれたジャンヌ・アントワネットは、貴族の子女以上の教育を受けて育ち、、16歳で社交界にデビューすると、その可憐な美貌と知性でパリ中の評判をさらいます。19歳のときに徴税請負人のシャルル=ギヨームと結婚した後も、一流のサロンに出入りしてヴォルテールら一流の文化人と知り合うなどの「自分磨き」を継続。やがてルイ15世の目に留まり、ポンパドゥール侯爵夫人の称号を与えられて夫と別居。正式に公妾として認められるに至ります。

国王の側室に対する貴婦人たちの嫉妬や裏切り、さらにはリシュリュー公爵やモルーパ伯爵らの重臣たちの権謀術数をかわして、ルイ15世の信頼を勝ち取っていく芯の強さを見せますが、彼女の魅力はその先にありました。なんと、生まれつき虚弱な体質には辛かった「夜のお努め」を拒否するという、愛人にはあるまじき行動に出るのです。もちろん、可憐な美貌が衰えた訳ではないことは、その後に描かれた数々の肖像画が証明しています。

しかも、その後の活動が凄い。現エリゼ宮をはじめ今なおパリを彩る名建築を作らせただけでなく、ディドロダランベールの百科全書刊行や、王立釜としたセーブルでの磁器製作を支援。さらには、七年戦争では宿敵オーストリアの女帝マリア・テレジアと手を結んでプロイセンに対抗するに至ります。もっともその結果は、プロイセンと同盟を結んでいたイギリスにアメリカ新大陸での植民地を奪われるという惨憺たるものだったのですが・・。

しかし、それは結果論。自らの魅力と才覚のみを頼りにして18世紀という時代を走り抜き、時代を動かすに至ったポンパドール夫人の生き方は、現代からみても十分に魅力的なのです。「私の時代が来た」という有名な言葉も、本書の文脈においては嫌味には聞こえません。カラーで多数収録されている美しい肖像画を、何度も見返しながら読みました。

2014/1