りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/11 Best 3

1.息吹(テッド・チャン) 第1短編集『あなたの人生の物語』以来17年ぶりの第2短編集というから、寡作にもほどがあります。しかし2年に1編という短編発表にもかかわらず、彼の作品は多くのSF賞を受賞し、映画化されてヒットし、オバマ前大統領から…

大西洋の海草のように(ファトゥ・ディオム)

2002年の日韓ワールドカップでかつての宗主国フランスを破るという大金星をあげたセネガルは、ベスト8にまで進出して大きな話題になりました。その試合をクライマックスとする本書は、1968年にセネガルの離島に生まれ、現在はフランスに住んでいる…

春の宵(クォン・ヨソン)

この短編集の原題は『アンニョン、酔っぱらい』だそうです。著者はあとがきで自身の飲酒遍歴を語り、「決して自分からお開きとは言えない人間らしい」と語っています。「絶望と救いを同時に歌った詩のような小説」が生み出された背景には、著者の体験もある…

Yの木(辻原登)

1945年生まれの著者は、本書が出版された2015年時点で70歳。失礼ながら0代半ば頃の『許されざる者』から『冬の旅』あたりがピークではないかと危惧していたのですが、まだまだそんなことはありませんね。本書は短編4作ですが「ある一瞬」に向け…

鞠子はすてきな役立たず(山崎ナオコーラ)

新聞に連載されていた時と単行本で出版された時には『趣味で腹いっぱい』というタイトルだったのが、文庫化の際に改題されたとのこと。当初のタイトルではエッセイと勘違いされそうという理由だそうですが、このタイトルもなんだか意味不明ですね。しかし本…

地上で僕らはつかの間きらめく(オーシャン・ヴオン)

離れて暮らす母親に宛てた手紙に、祖母と母と自分自身の人生を綴り続ける青年・・というと高村薫さんの『晴子情歌』のようですが、これらの手紙が出されることはありません。幼い息子と祖母を抱えて、戦後の混乱が 続くベトナムからアメリカへと渡った母親は…

もらい泣き(冲方丁)

著者が2009年6月から2012年2月まで「小説すばる」に連載したコラムは、「泣き」をテーマとしたショ-トストーリー集でした。はじめは「怒り」のほうに意識が向いていたとのことですが、直前に考えを変えたとのこと。「怒り」を持続させたり、他人の…

優しい噓(キム・リョリョン)

書肆侃侃房が出版している「韓国女性文学シリーズ」の第2作です。韓国で80万部のベストセラーとなり、映画化もされています。本書が扱っているのは、日本でも深刻な女子中学生のイジメ問題。 物語は、中学1年生のチョンジが、赤い糸で編んだ長い紐で首を…

恋するアダム(イアン・マキューアン)

『ピグマリオン』の昔から人造物に恋をしてしまう人間の物語は数多くあるけれど、ディプラーニングの出現によってAIとの恋愛は可能になるのかもしれません。もっとも不完全で矛盾した存在である人間のほうが、AIから愛想をつかされてしまう可能性の方が…

偽姉妹(山崎ナオコーラ)

叶姉妹のことはほとんど知らないし、阿佐ヶ谷姉妹のこともTVで見る情報しか持っていないけれど、どちらもビジネス上だけの偽姉妹なのに、いかにも本物の姉妹のように見えてしまいます。阿佐ヶ谷姉妹によって発想を得たという本書は、実の姉妹よりもまった…

現想と幻実(ル=グィン)

『ゲド戦記シリーズ』や『闇の左手』をはじめとする「ハイニッシュシリーズ」の著者に、まだ未邦訳だった短編があったのですね。現実世界を舞台としつつも幻想的な要素が入り込んでくる「現想編」と、宇宙や仮想世界を舞台としつつも妙にリアリスティックな…

烏有此譚(円城塔)

タイトルは「うゆうしたん」と読みます。「烏(いずくん)ぞ此の譚(はなし)有らんや」と読み下す漢文だとのことであり、「まあこんな話はないよね」くらいの意味です。 従って本書の「本文」は、要するにホラ話。ポンペイの遺跡から発掘された人型の空洞か…

サキの忘れ物(津村記久子)

著者が作り上げる独特の優しい世界は、必ずしもサキの短編のような結末を必要とはしていないのですが、表題作のエンディングは素敵です。 「サキの忘れ物」 バイト先の喫茶店で客が忘れていった1冊の本が、これまで本を読み通すことができなかった女性の人…

息吹(テッド・チャン)

第1短編集『あなたの人生の物語』以来17年ぶりの第2短編集というから、寡作にもほどがあります。しかし2年に1編程度のペースで短編を発表していたにもかかわらず、彼の作品は多くのSF賞を受賞し、映画化されてヒットし、オバマ前大統領から推薦され…

姉の島(村田喜代子)

『飛族』の舞台である「朝鮮との国境近くの島」とは別の島なのでしょうが、本書の舞台も五島列島の端の方のようです。年老いた海女が「この世とあの世の境界」を超えるような体験をする点も共通しています。しかし本書は、国家と戦争についてもう少し踏み込…

82年生まれ、キム・ジヨン(チョ・ナムジュ)

東京オリンピックで金メダルを取った韓国のアーチェリー女子選手が、ショートカットのせいで「フェミニスト」と「中傷」されたということです。韓国で起こっている「フェミニストとアンチ・フェミニストの対立」の激しさを思い知らされる事件でしたが、その…

炎上する君(西加奈子)

いつでも誰もが何かと戦っていて、疲れ果ててしまうような現代社会。本書は、そんな人々に贈られた「大人の童話集」なのでしょう。 「太陽の上」 「太陽」という名の中華料理店の階上にあるアパートに住んでいる女性は、3年間も部屋の外に出ていません。彼…

「グレート・ギャツビー」を追え(ジョン・グリシャム)

『法律事務所』や『ペリカン文書』で華々しくデビューしたグリシャムの作品をあまり読まなくなったのは、『ペインテッド・ハウス』を読んでからでしょうか。つまらなかったからではなく、自伝的要素を多く含む少年の物語が素晴らしすぎて、明らかにフィクシ…

とりあえずウミガメのスープを仕込もう。(宮下奈都)

婚約を破棄された女性が料理によって救われる『太陽のパスタ、豆のスープ』や、小さなレストランを舞台とする連作小説『誰かが足りない』で、さまざまな料理を美味しそうに描いた著者ですから、さぞ料理が上手な方だろうと思っていました。本書を読んで納得…

ゴーストハント7 扉を開けて(小野不由美)

能登の事件を解決して東京への帰路についた一行は、道に迷って山に囲まれたダム湖に辿り着いてしまいます。しかしこの湖こそナルが探し求めていた場所だったのです。ナルはなぜ、突然のオフィス閉鎖を宣言したのでしょう。ようやくナルの正体や目的が明らか…

ゴーストハント6 海からくるもの(小野不由美)

代替わりのたびに多くの死人を出すという言い伝えが残る旧家の依頼で、ゴーストハンターたちは能登に飛びます。当主であった祖父が亡くなってすぐに幼い姪の身体に異変が起こったというのです。それは一族にかけられた呪いなのでしょうか。 しかしゴーストハ…

四隣人の食卓(ク・ビョンモ)

日韓関係は改善の気配を見せませんが、韓国女流文学が日本で密かなブームになっているようです。華やかな韓流ドラマやKポップスと異なって、弱者の視点から社会問題を描いた作品であることが、日本の読者の関心を惹いたのかもしれません。韓国社会の負の部…

紅霞後宮物語 第12幕(雪村花菜)

架空の王朝「宸」の軍人皇后として、後に神格化される小玉の物語を軽妙に語る人気シリーズの第12作では、ひとつの物語に決着がつきました。 前巻で皇帝の落胤を孕んだ「悪女面の美女」仙娥の罠にはまり、小玉は皇后の地位を剥奪されてしまいました。冷宮と…