りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

四隣人の食卓(ク・ビョンモ)

f:id:wakiabc:20211013073721j:plain

日韓関係は改善の気配を見せませんが、韓国女流文学が日本で密かなブームになっているようです。華やかな韓流ドラマやKポップスと異なって、弱者の視点から社会問題を描いた作品であることが、日本の読者の関心を惹いたのかもしれません。韓国社会の負の部分は日本よりも先鋭なのですが、共通点も多いのです。

 

本書は韓国フェミニズム文学を担う著者による2018年の作品であり、男女間で評価が分かれているとのこと。もちろん本書を支持しているのは女性たちです。国が妊娠を奨励し、子育てを賞賛する目的で建設した共同住宅に越してきた4家族の間に起こる軋轢を描いた物語。そもそも国がモデルとする高収入の夫と専業主婦の妻の間に複数の子どもがいる家庭など少ないのです。ここに集まった4家族の内、かろうじて当てはまるのは1家族だけ。他は給料もとどこおりがちな同族企業に夫が勤めている家庭。子育てもままならないほど多忙なフリーのイラストレーターが妻である家庭。夫が失業中で妻が薬局のレジ係をしている家庭。

 

もちろんこのようなメンバーによる共同生活や共同保育など初めからうまくいきそうにありません。それでも破格の家賃と引き換えの入居条件や、隣人の同調圧力に屈して、「我が子のために」我慢を重ねる4家族でしたが、もろん破綻してしまうのです。その過程で挿入される数々のエピソードは、本書への反対派が指摘するような「極端な話」や「妄想のつなぎ合わせ」ではなく、日本人の目から見てもかなりリアルに思えるのです。そんな息苦しさを象徴するのが巨大な食卓です。「巨大になればなるほど、食卓の真ん中に広がるのは空白」なのですね。

 

本書は、福岡を拠点として歌集やユニークな作品を紹介し続けている「書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)」による「韓国女性文学シリーズ」の第8作として出版されました。既刊7作品とも未読ですが、順に読んでみようと思います。

 

2021/11