りぼんの読書ノート

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家宝(ズウミーラ・ヒベイロ・タヴァーリス)

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水声社から「ブラジル現代文学コレクション」の1巻として出版された作品です。現在まで本書を含んで4冊出版されています。まだエルドラードの孤児(ミウトン・ハトゥン)に続いて2冊めですが、どちらも現在主流の心地よい作品ではなく、何かザラッとしたものを感じさせてくれます。

20世紀後半のサンパウロ。長年判事を務めた夫の死後、ひとり残された老女マリアが、家宝の宝石を胸に抱きながら自らの過去を振り返ります。ひとつは結婚の時に夫からプレゼントされたピジョン・ブラッドのルビー。冒頭でこのルビーは鑑定士から偽物と判定されるのですが、彼女はそのことを知っていたようです。それは、互いに偽りあってきた結婚を本物と装ってきた、彼女の半生と重なっているいうです。

もうひとつは、ゲイの夫の愛人であった私設秘書、後にマリアの愛人ともなったマルセウから贈られたカボションのルビー。なんとこちらは本物なのですが、宝石の真贋は幸福の度合いとは関わりがないのかもしれません。不純物を持つがゆえに耀きと価値を増すようなルビーも存在するのです。

マリア、夫の判事、2人の愛人であったマルセウ、さらに家族同然と言われながらやはり家族ではないメイドのブレッタと彼女の姪のベネジッタ。それぞれが複数の顔を持つ錯綜した関係の中で、はじめは純真でうぶな娘だったマリアは、快活で豪胆な老女へと変容を遂げました。そして判事の未亡人としての立場を崩すこなく、毅然として生き続けているのです。もはや家宝の宝石とは、彼女の人生のことなのでしょう。散文詩のような文体が、ルビーのイメージを輝かせてくれる作品です。

2018/7