りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018/5 ソロ(ラーナー・ダスグプタ)

5月は「二部構造」の作品が上位に並びました。第1部の悲惨な過去を、第2部の白昼夢が美しく奏でていく『ソロ』と、第1部で夫の視点から語られた幸福な結婚生活を、第2部の妻の視点が覆していく『運命と復讐』。どちらも重層的な構造を持ちながら、読後に深い感動をもたらしてくれる作品でした。次点に挙げた『赤い天幕』も、旧約聖書の物語を、脇役に過ぎなかった女性たちの視点から再構成した作品です。


1.ソロ(ラーナー・ダスグプタ)
ブルガリアの首都ソフィアのうらぶれたアパートで、盲目で身寄りもなく生き延びている100歳の老人ウルリッヒ。祖国の歴史に翻弄されて無為のまま生涯を終えようとしている老人でしたが、彼の脳内では、自らの人生と折り合いをつけるための壮大な白昼夢が展開されていたのです。実現し得なかった過去の未来は、決して空しいだけのものではないのです。

 

2.運命と復讐(ローレン・グロフ)
貞淑で献身的な妻に支えられ、劇作家として成功を収めた男の人生は、虚構の上に成り立っていたものなのでしょうか。夫の視点で綴られた美しい結婚生活は、妻の視点から綴られたギリシャ悲劇的な真相によって覆されてしまいます。しかしそれでも、妻の夫への愛を信じられる作品なのです。

 

3.ノーラ・ウェブスター(コルム・トビーン)
1970年前後のアイルランドの田舎町で、教師であった夫モーリスを突然亡くした46再の主婦ノーラが、人生を立て直していく過程を丹念に描いた作品です。普通の母親が抱える内省と葛藤が心に響くのは、自分の母親の記憶が重なってくるからなのでしょう。著者の母親をモデルとする本書は、「遅ればせながら息子が母親に捧げた、共感を示す贈り物」のようです。

 

 

 

2018/5/30