りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

不機嫌な女たち(キャサリン・マンスフィールド)

イメージ 1

20世紀前半に短編の名手として活躍したニュージーランド出身の女性作家の短編集からは、女性たちの感情の揺れが匂い立ってくるようです。しかもその背景に隠された真の感情は、「怒り」であるようにも思えるのです。

 

「幸福」
はじめて夫に欲望を感じた夜、夫が自分の友人と深い関係にあることを知る妻の気持ちは複雑なはず。その友人の女性には、レズビアンのような感情も持っていたのですから。

 

「ガーデン・パーティー
パーティーの後で、近隣の貧困地区で事故死した男の葬儀に参列した娘の感情も複雑です。彼女の中には、博愛心と階級意識が同居していたのです。

 

「人形の家」
友人の貧しい姉妹に自慢の「人形の家」を見せた少女は、裕福さを見せびらかしすつもりではなかったのでしょうが・・。

 

「ミス・ブリル」
老女が一日の始まりに感じた歓びを打ち砕いたのは、彼女を老いぼれ扱いする少女たちの心無いひとことでした。

 

「見知らぬ人」
航海から戻って来た妻を出迎えた夫は、前夜、妻が船内で見知らぬ男性を看取ったことを聞かされます。それは2人の関係に入った亀裂なのでしょうか。

 

「まちがえられた家」
1人暮らしの老女の家にやってきたのは葬列の男たち。それは単なる間違いだったのですが、一度不安を掻きたてられた心は、もう元には戻れません。

 

「小さな家庭教師」
イタリアで家庭教師の職を得てはじめてイギリスの外に出た若い女性は、列車で乗り合わせた初老の男性の好意を受けて、ベネティアでささやかな観光を楽しみます。それが彼女の運命を狂わせることになるとも知らずに・・。

 

「船の旅」
祖母に連れられて船に乗る幼い娘は、それが父親との永遠の別れになるかもしれないことを感づいていました。娘は母を亡くしたばかりだったのです。

 

「若い娘」
母と一緒にカジノに入れず、幼い弟とともに友人に預けられた17歳の娘は、もちろん憂鬱です。

 

「燃え立つ炎」
夫の友人が自分に寄せる熱情を弄ぶ人妻は、何を望んでいるのでしょう。

 

「ささやかな過去」
過去につきあった男性と再会して、自分が輝かしかったことを思い出した女性ですが、彼の心はすでに彼女からは遠く離れていました。自伝的要素が濃い作品と紹介されていました。

 

「一杯のお茶」
町で出会った貧しい若い女性に一杯のお茶を施した、裕福で幸せな妻は、夫の一言に凍りつきます。それは階級格差と女性蔑視を混在させたものだったのですが、妻は女性に嫉妬を感じてしまうのです。

 

「蠅」
この作品だけは男性が主人公です。息子の戦死から立ち直っていない男は、嵌ったインク壺から這い上がろうとしたものの逃げられなかった蠅に怒りを感じます。

 

2017/10