りぼんの読書ノート

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銀の猫(朝井まかて)

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平均寿命が50歳未満であったという江戸時代ですが、それは乳幼児死亡率が高かったため。長寿の人はそれなりに多かったようです。美しく奔放な母に手を焼きながら、江戸で老人介護を生業として暮らすお咲を主人公にした連作短編からは、今も昔も変わらない介護の真実が見えて来るようです。

本音で話し合うことの大切さを描いた「銀の猫」、道楽三昧の隠居に振り回される「隠居道楽」、互いに相手を憎み切れない母と娘の微妙な関係がお咲自身と二重写しになる「福来雀」、高位の武士であっても老いと痴呆を恐れる「春蘭」

「半化粧」では貸本屋が介護ノウハウ本を出版しようと試みますが、出てくるのは苦労話ばかり。「菊と秋刀魚」では要介護となった老人の生きがいを扱いますが、本音を出し合っても都合の悪いことでは「狸寝入り」する知恵も必要かもしれません。そして最終章の「今朝の春」では、ついに介護ノウハウ本が完成。

当時ベストセラーとなった貝原益軒の「養生訓」をなぞって「往生訓」と名付けられたノウハウ本では、「ぽっくりもゆっくりも立派な往生」という「ぎりぎりの線」が打ち出されます。気の持ちようだけでは厳しい現実は変わりませんが、その中でも僅かな光を見出そうとする知恵もまた、必要なのでしょう。

江戸時代で両親の介護をするのは、長男の役割だったとのこと。跡を継ぐ者が自ら介護にあたるというのは理にかなっているようですが、働き盛りの男性が介護に当たりきりでは、さまざまな問題も起こりそうです。それでも、女性にばかり負担がかかっている現代日本の姿よりはマシかもしれません。

2017/10