2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧
ニュージャージーの寂れた街で生まれ育った著者にとって、ディズニーランドに象徴されるカリフォルニアは、まるで夢の国のように思えたあこがれの場所でした。ビートルズ旋風がアメリカに上陸した頃、「青い海、ビキニの娘、サーフィン」などをテーマにして…
小学校6年生になった二郎の父親・一郎は、めちゃくちゃ変わり者。もと過激派の闘士で今は脱党しているけれど、本質的にはアナキスト。国民健康保険など払う必要ない、税金も払わない、学校にも行く必要はない、と言っていつも周囲と軋轢を引き起こしていま…
ちょっと「う~ん」です。『BRAIN VALLEY』で大脳生理学を追求し、さらに『あしたのロボット』や『デカルトの密室』などの「ケンイチシリーズ」でAIの未来像に迫り続けてきた瀬名さんが描く「仮想世界」にしては物足りません。 本書に登場する仮想世界「BR…
ディック本人が、後書きで記しています。仲間同士で楽しく遊んでいただけなのに、その代償はあまりにも大きかった・・。彼らが得たものは一時の気晴らしにすぎなかったのに、代償として支払ったものは犯罪歴のみならず、不治の病であったり、人生そのもので…
天才数学者であり天文学者でもあったガウスと、大探検家であり地理学者でもあったフンボルト。19世紀はじめのドイツを象徴する2人の偉人を主人公とした、知的冒険小説です。 同時代に生きながらほとんど接点のなかった2人ですが、著者にこの2人を組み合…
旧ソ連の無名作家によって書かれ、国内では出版もかなわずに長らく埋もれていた小説をノーベル賞作家のスーザン・ソンタグが「発見」して出版にこぎつけた本です。 おそらく1970年代のある冬の日。著者と思える主人公は、ドストエフスキーの妻アンナの日…
江戸時代中期には米沢上杉藩の財政はほとんど瀕死状態にまで追い詰められて、一時は藩土返上のうえ領民救済は公儀に委ねようと本気で考えたほどだったそうです。 外様とはいえ、上杉謙信以来の名家がどうしてこんなに落ちぶれてしまったのか。秀吉時代に越後…
先に読んだ『DOJO-道場』の第2弾です。 第一作は、史上最強と言われる空手流派で不世出の天才と言われた先輩・神谷の開いた道場をひょんなことから引き継いでしまった、腕は立つけれどお人よしの主人公・藤堂が、人生ではうまく立ちまわれずに結局は逃…
初期の転置式暗号から、現在のネット社会で標準となっているRSA暗号、さらには未来の量子暗号までをも説明している暗号解読本であり、読者がこれらの暗号を実際に体験しながら読み進めることができるようになっています。でもこの本のすごさは、こんなに…
適齢期を過ぎたインド人キャリア女性の、結婚までの顛末を描いた著者の自伝的小説。でも、香港に生まれてヨーロッパで働き、今は結婚してLAに住んでいる著者の話ですので、現実のインド社会の物語ではなく、インターナショナルな価値観を身につけ自立した…
ローマ帝国を舞台にした歴史ミステリーです。シリーズ第一作。 時は紀元70年のローマ。皇帝ウェスパシアヌスが基盤を固めつつあるころといいますから、アウグストゥスにはじまる「ユリウス・クラウディウス朝」が暴帝ネロの自殺で終焉し、1年の間に4人も…
この本もダークファンタジーですね。タイトルはギリシャ文字で「ホーラ」。エーゲ海の小島にある廃墟の名前。そこは昔から、ローマ人に、トルコ人に、ヴェネチア人に、ドイツ人に、イギリス人に占領され、蹂躙されてきた、今は廃墟となった町。支配者が変わ…
現実と非現実が交錯するダーク・ファンタジーの名手が書いたヴァンパイア物語。といっても本書に登場するヴァンパイアは、人血を吸い、日の光や十字架やニンニクを恐れて日中は棺桶に眠り、夜な夜な狼や蝙蝠に変身するといった類型的なヴァンパイアではあり…
独自路線を掲げたチトーのユーゴスラビアが、ソ連を盟主とするコミンフォルムから追放された1948年の4月1日に生まれた、本書の主人公のイヴァン。エイプリル・フールのジョークが一生つきまとっては可愛そうと考えた両親は、1日ずらして出生届を出し…
儒教の創始者としての「孔子」の名前を知らない人はいないでしょうし、孔子が遺したとされる言葉やエピソードのいくつかは、誰でも知っていますよね。一方で、紀元前6世紀の春秋時代に生きて、多くの弟子を育てながらも、実際の政治の場ではあまり活躍の機…
天才的な発想というものは、天性のものなのですね。こういう本を読むと、つくづくそう思います。「生きることのせつなさ」を、さまざまな形で描いた16編の短編集。 ここに登場する女性たちは、ある時は喪失を理解できず、ある時は欲望や孤独感に身を焦がし…
世界の中で、一定の条件のもとでの安楽死が認められているのはオランダだけ。著者の友人たちの間で「アムステルダム」というのは、「安楽死」を意味する隠語として用いられているようです。本書は、安楽死問題をひとつの伏線として、コメディタッチで描かれ…
ヒンズー教だけでなくキリスト教やイスラム教の神々をも愛する、インドの動物園経営者の息子パイは、動物園を閉鎖してカナダへの移住を決めた両親とともに貨物船に乗り込みます。動物たちが一緒なのは、北米でのほうが高く売れるから。 ところがその貨物船は…
『僕僕先生』でファンタジーノヴェル大賞を受賞した著者の、受賞後第一作です。タイトルは「ゆうひ」ではなく「せきよう」との読み方。やはり仁木さんは、中国歴史ものでいくんですね。 でも、陳舜臣さんや宮城谷昌光さんのみならず、すでに数多くの方が手が…
朝日新聞に連載されているエッセイ「三谷幸喜のありふれた生活」の単行本もこれで6巻め。脚本家や映画監督としては相当に厳しく、妥協されない方とお聞きしていますが、エッセイに書かれる日常生活の姿は、奥様が女優であり有名な知人が多いことを除けば、…
『ショコラ』をはじめとする「フード・トリロジー」の著者による学園ミステリー! 「同姓同名の別人?」とも思いましたが、「視点の変更」によって真相に迫っていく語り口は、紛れもなくジョアン・ハリスさんですね。ただこの作品では、2人の人物の視点のみ…
大きく分けて2部構成になっています。前半は、18世紀末にフランクフルトのユダヤ人ゲットーからスタートして国際的な金融帝国を築き上げたロスチャイルド一族の物語。後半は、ボルドーに5つしかない1級シャトーのうちの2つまでを所有しているという、…
5月のベストはなんといっても『贖罪』です。おそらく年間ベストでも候補になるはず。現代文学の可能性と限界を、古典的な19世紀の英国文学の枠組みに注ぎ込んだかのようなスタイルは圧巻です。本書のテーマが「作家としての贖罪」であることに気づかされ…
20世紀はじめ、イタリアからアメリカへの密航船の中で生まれ落ちたアンジェロ少年がニューヨークを支配するギャングスターとなって、ほぼ1世紀にわたる人生をまっとうし、20世紀の終わろうとする頃、病院で死の床につくまでの物語。 今まさに、アンジェ…