りぼんの読書ノート

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ロスチャイルド家と最高のワイン(ヨアヒム・クルツ)

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大きく分けて2部構成になっています。前半は、18世紀末にフランクフルトのユダヤ人ゲットーからスタートして国際的な金融帝国を築き上げたロスチャイルド一族の物語。後半は、ボルドーに5つしかない1級シャトーのうちの2つまでを所有しているという、ロスチャイルド一族と高級ワインとの関係。作者が書きたかったのは、もちろん第2部のほうですね。

一族の歴史は、初代マイヤー・アムシャルがゲットーで古銭商を営んだことに遡ります。リスクの高かったドイツ貴族の出入り商人となり、両替から金融業へと手を広げて財をなしました。一族の活動が国際的になったのは、第二世代の5人の息子が、フランクフルト、ウィーン、ロンドン、パリ、ナポリに分かれて支店を経営してからのこと。折りしも欧州を揺るがせたナポレオン戦争で、相戦う両陣営に融資をして巨利を得たとも言われています。その後、鉄道事業進出やスエズ運河買収、ロシアの地下資源権益取得やアメリカ進出などを経て、幾多の危機を乗り越えて現在に至っているんですね。

ロスチャイルド一族は、徹底した家族主義・ユダヤ主義でも知られています。一族内で婚姻を重ね、ビジネスは男性のみが継承し、他家の経営参加を排除するのが「鉄の掟」。さすがに後年は規律も緩み、現在では一族が直接企業経営に携わることもなくなっているようですが、このあたりのことは世界のファミリービジネスを概括したダイナスティ(デビッド・S・ランデス)でも触れられていました。

しかし、傍系とはいえロスチャイルド一族が現在でも直接経営しているのが、ラフィットとムートンのボルドーのシャトーなんですね。とりわけ、最初は筆頭とはいえ2級にランキングされていたムートンに近代的経営とブランド戦略を持ち込み、ナチスによるフランス占領という最も悲惨な時期を乗り越えて1級の仲間入りをさせたフィリップ・ド・ロスチャイルドのサクセス・ストーリーが読み応えあります。彼の一族は、現在でもシャトーを直接経営し、アメリカやチリなど海外にも進出しているとのこと。岩崎家と小岩井農場との関係とは違うようですね。

ロートシルトロスチャイルドのフランス語)」ブランドのヴィンテージワインには手が出ませんが、1級シャトーのセカンドブランドの「ムートン・カデ」や、チリで生産している「エスクード・ロホ」(スペイン語で赤い盾=ロットシルト=ロスチャイルド」くらいなら、なんとか買えそうです。おいしいワインを飲みたくなってしまいました。^^

2008/6