りぼんの読書ノート

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琥珀の眼の兎(エドマンド・ドゥ・ヴァール)

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タイトルの「兎」は、江戸時代の優れた工芸品である「根付」の一品のこと。本書の表紙になっています。東京で晩年を過ごした大叔父イギーから264個もの「根付コレクション」を相続した著者は、その来歴を調べ始めます。そのコレクションは、戦前の欧州でロスチャイルド家などと並ぶ小帝国を築いた一族の、没落の歴史を象徴するものだったのです。

19世紀後半。オデッサで富をなしたユダヤ人の大穀物商であったエフルッシ家は、パリやウィーンに進出。パリの一族の3男に生まれて芸術家たちのパトロンとなったシャルルは、当時のジャポニズム・ブームに魅了されて日本から輸入された根付コレクションを入手します。パリの一族は、ドレヒュス事件で顕わになった反ユダヤ主義の中で没落していくのですが、根付はウイーンの従兄弟ヴィクトルの結婚祝いに贈られました。

大銀行家であったウイーンの一族もまた、2つの世界大戦の中で没落していきます。老いたヴィクトルは終戦の年に、亡命先のイギリスで無一文状態になって死亡。一族が収集した多くの美術品がナチスに略奪されて散逸した中で、娘(著者の祖母)エリザベスのもとに戻ってきたのは、主家に忠実だった老女中がエプロンのポケットに入れて持ち出した根付だけだったのです。仕事で東京に向かうという弟イギーにプレゼントされた根付が、45年後に著者のもとに戻ってきたんですね。ちなみに著者は、大学教授でもある著名な陶芸家です。

「エフルッシ」と検索すると、南仏にある「エフルッシ・ドゥ・ロートシルト」という豪華なヴィラが紹介されます。パリの一族モーリスと結婚したロスチャイルド家の娘が、離婚後に作らせた宮殿だそうです。モーリスのほうは、博打で膨大な借金を作って離婚されたとだけ記されています。

2014/5