りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2021/10 Best 3

1. 戦争は女の顔をしていない(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ) 著者は2015年のノーベル文学賞を受賞した著者の代表作ですが、本書をめぐっては「文学論議」が起こりました。自らをジャーナリストであるとする著者の地の文はほんのわずかであり…

帝国のベッドルーム(ブレット・イーストン・エリス)

めちゃくちゃ後味が悪かった『レス・ザン・ゼロ』の続編と気付かずに読み始めてしまいました。1985年に学生だったクレイは、2010年には中年の映画脚本家になっています。当時恋人だったブレアとの関係は希薄になっているようですが、かつてセックス…

おもちゃ絵芳藤(谷津矢車)

幕末の大絵師・歌川国芳の死後、残された弟子たちは時代が明治へと大きく急展開する中で苦闘せざるをえません。語り手は、人徳はあるものの才能のなさを痛感している歌川芳藤です。後輩絵師からも「華がない」と酷評され、版元からは「おもちゃ絵」と呼ばれ…

もう死んでいる十二人の女たちと(パク・ソルメ)

「韓国で最も独創的な問題作を書く新鋭作家」とのことですが、なんともわかりにくい作風です。女性暴行事件、原発事故、光州事件などの社会的問題と向き合っていることは理解できるのですが、事件と著者との距離感が独創的で幻想的で、作品を理解するための…

大天使はミモザの香り(高野史緒)

近世ヨーロッパを舞台とする「音楽スチームパンク」とでも言うしかないSFジャンルを生み出した著者の2019年の作品ですが、本書はミステリであってSF的な要素は含まれていません。 平凡なアマチュアオーケストラ団員である、アラフォー地味美女の光子…

炉辺の風おと(梨木香歩)

2018年4月から2020年5月にかけての約2年間、毎日新聞の日曜版に連載されていたエッセイです。梨木さんは八ヶ岳の麓に山荘を購入されていたのですね。東京から気軽に出かけられる「里山と原生林の中間くらい」の場所は、自然派の著者にとって使い…

ゴーストハント5 鮮血の迷宮(小野不由美)

「ゴーストハント」と改題された旧「悪霊シリーズ」の第5作は、荻原規子さんや辻村深月さんをはじめ多くの読者が「最恐」と述べている作品です。ただし本書の怖さは西洋的であり、私には第2作『人形の檻』のような日本的なもののほうが恐ろしいと思えます…

ゴーストハント4 死霊遊戯(小野不由美)

「ゴーストハント」と改題された旧「悪霊シリーズ」の第4作。ごく普通の女子高生である谷山麻衣のバイト先は、17歳の美少年ナルが所長を務める渋谷サイキックセンター。陰陽師らしき助手のリンさんをはじめ、仕事でチームを組む、拝み屋のボーサンこと滝…

イレーナ、永遠の地(マリア・V・スナイダー)

『毒見師イレーナ』に始まる長い物語が第6巻にあたる本書で完結しました。このシリーズの特色は、法の下で個人の権利が厳しく制限される平等な国家と、魔術師というエリート層の支配下で自由や文化を満喫できる国家の比較にあったのですが、両国の関係が友…

男も女もみんなフェミニストでなきゃ(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)

『半分のぼった黄色い太陽』や『アメリカーナ』でベストセラー作家となった、ナイジェリア出身の女性作家によるTEDスピーチです。2012年に行われたこのスピーチは話題となり、ディオールのパリコレでも同名のロゴTシャツが登場するほどだったそうで…

戦争は女の顔をしていない(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ)

著者は2015年のノーベル文学賞受賞者ですが、最初に読んだ『セカンドハンドの時代』には驚きました。M1グランプリで漫才論議があったように、これが文学なのかと思ったのです。自らをジャーナリストであるとする著者の地の文はほんのわずかであり、ほ…

古都(川端康成)

言わずと知れた日本人で初めてノーベル文学賞を受賞した大作家ですが、今まで数冊しか読んだことがありません。小学校の国語の教科書で紹介されるような作家は苦手だったのです。原田マハさんの『異邦人(イリビト)』が本書へのオマージュであるとのことで…

朱夏(宮尾登美子)

土佐の高知の花街で生まれ育った著者は、高等女学校を卒業して代用教員となった翌年に17歳で同僚の教師と結婚。ここまでの生涯は、綾子という主人公の女性に託されて『櫂』と『春燈』で描かれています。そして「人間一人の一生にも匹敵する長さ」と思われ…

パチンコ 下(ミン・ジン・リー)

劣悪な環境の中で兄嫁とともに戦中の大阪を生き抜き、2人の息子を育て上げたソンジャのもとに、初恋の相手であったハンスが姿をあらわします。日本の裏社会で大きな存在感を持つハンスは、これまでもずっとソンジャの一家を助けていたというのです。しかし…

パチンコ 上(ミン・ジン・リー)

1979年に家族とともにソウルからニューヨークに移住した少女は、アメリカで弁護士となり、そして作家になりました。学生時代の1989年に着想を得たという在日コリアンの物語は、ひとたびは草稿もできあがったものの、東京在住時代に行った取材に基づ…

華氏451度(レイ・ブラッドベリ)

華氏451度は摂氏232度であり、紙が燃える温度です。書物の所有が禁止され、発見された書物は焼き尽くされてしまうディストピアを描いた本書は、映画化もされた有名な作品ですが、今まで読んだことがありませんでした。始皇帝の焚書坑儒や、ナチスによ…

あかね紫(篠綾子)

中宮彰子のサロンの最盛期を支えた紫式部、和泉式部、藤原基子の娘たちが、賢子、小式部、中将君。そんな3人娘が母たちの後を継いで中宮彰子に仕え始めたのが14歳の時。その頃の活躍を描いたのが『紫式部の娘。賢子がまいる!』と『紫式部の娘。賢子はと…

カッシアの物語 3(アリー・コンディ)

反乱軍ライジングの攻勢によって、安全の代償に自由を制限するソサエティの統治が崩れようとしています。自由な選択を求めて辺境の外縁州を彷徨ったカッシアとカイも、ライジングの一員として反乱に身を投じていました。カッシアはソサエティの首都に潜入し…

カッシアの物語 2(アリー・コンディ)

温暖化によって多くの人類が滅亡した後に、数々の教訓をもとに再建された社会の枠組みである「ソサエティ」は、安全な生活と引き換えに人々の自由を大きく制限していました。そんなコントロール社会の象徴ともいうべきものが、結婚相手を決められるマッチン…

カッシアの物語 1(アリー・コンディ)

ロイス・ローリーの『ギヴァー4部作』に触発されて書かれた作品ということですが、本書においてはディストピア小説の雰囲気はあまり感じられません。温暖化によって人類の多くが死に絶えた後に再建された「ソサエティ」は、確かに高度な管理社会です。平和…

断絶(リン・マー)

中国発の未知の病「シェン熱」に襲われた世界・・というと現実とリンクしたパンデミック小説のようですが、本書は感染症の蔓延と戦う物語ではありません。この病は克服できるものではなく、世界はひたすら滅亡へと向かっていくのです。 語り手の中国系移民キ…

やがて満ちてくる光の(梨木香歩)

著者はエッセイの名手でもあり、2002年の『春になったら苺を摘みに』から2020年の『風と双眼鏡、膝掛け毛布』に至るまで、その時々の心象風景や自然観察を綴った作品はどれも素晴らしい作品として成立しています。しかし2019年7月に出版された…

異邦人(原田マハ)

「異邦人」とは、京都以外の土地で生まれて京都にやってきた人を指す「入り人」であり、「いりびと」と読ませています。「葵、屏風祭、宵山、巡行、川床、送り火、紅葉・・」と連なるタイトルからも歴然のように、本書は京都の魅力に取りつかれた女性を巡る…