りぼんの読書ノート

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帝国のベッドルーム(ブレット・イーストン・エリス)

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めちゃくちゃ後味が悪かった『レス・ザン・ゼロ』の続編と気付かずに読み始めてしまいました。1985年に学生だったクレイは、2010年には中年の映画脚本家になっています。当時恋人だったブレアとの関係は希薄になっているようですが、かつてセックスとドラッグに狂っていたクレイの本質は変わっていません。今では映画女優をめざす女性たちを食い物にしているのです。もちろんこれは「Mee Too」で大批判されたキャスティングカウチなのですが、10年前には問題視されなかったのでしょうか。

 

そんなクレイが、パーティで出会ったブロンド美女レインにのめり込んでいくのです。はじめは軽い気持ちで付き合い始めたのですが、次第に彼女の魅力の虜になっていく過程で、謎の非通知メールが届き始めたり、友人たちの連続失踪事件が発生。レインの経歴も嘘や秘密に満ちていると気付く頃には、もはや彼女から離れられなくなっているのだから始末に負えない。

 

しかし本書はミステリではありません。本書の執筆に際してチャンドラーの影響を否定してしませんが、借りたのは雰囲気だけだったようです。殺人も起こるのですが、謎は謎のまま放置されているのですから。それにしても友人のジュリアンの扱いがひどいですね。前作で男娼となって殺されたのは「創作」とされますが、本書でも残忍な方法で殺害されてしまうのですから。

 

『レス・ザン・ゼロ』のレビューに「日本的な土壌においては喪失感へと変貌していった退廃は、アメリカでは狂気へとエスカレートしていった」という趣旨のコメントを残しましたが、バーチャル化が進んだ25年後の世界はもはやホラーでしかないようです。

 

2021/10