1. 戦争は女の顔をしていない(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ)
著者は2015年のノーベル文学賞を受賞した著者の代表作ですが、本書をめぐっては「文学論議」が起こりました。自らをジャーナリストであるとする著者の地の文はほんのわずかであり、ほとんどがインタビューなのですから。しかし第2次大戦に従軍したロシア軍女性兵士たちが心を開いて著者に語った数多くの証言記録を読み終えた後では、そんな疑問など雲散霧消していることでしょう。これまで男によって論理的に記されてきた戦争の背景や意義や経過や結果には含まれていなかった、語り部のみが伝え得る物語が本書の中に広がっているのです。
2. パチンコ(ミン・ジン・リー)
1910年の釜山から始まって現代日本に繋がる、4世代に渡る在日コリアン家族の長い物語は、今まで知らなかった「日本」の姿を見せてくれます。戦争から復興してゆく日本社会で、まるでパチンコの玉のように運命に翻弄される在日1世の母親と息子たち、孫たちの物語は、どこにたどり着くのでしょう。日本人にとっては居心地の悪い部分も含まれますが、本書の目的は糾弾ではありません。「私たちにできるのは、過去を知り、現在を誠実に生きることだけだ」という著者の言葉には重みを感じます。
3. あかね紫(篠綾子)
紫式部の娘、賢子が中宮彰子に仕え始めた14歳の時の冒険譚であった2冊の先行作品に続く第3作は、それから5年後の物語。19歳になって御所でも中堅となっている賢子らのもとに舞い込んできた藤原道長からの依頼は、まるで「とりかえばや物語」。全ての登場人物やエピソードを史実とぴったり合わせてくる著者の力量は、相変わらず素晴らしいですね。そして前2作が内包していた母と娘の関係というシリアスなテーマは、本書にも引き継がれているのです。賢子は「若紫のモデル」を超えることができたのでしょうか。
【次点】
【その他今月読んだ本】
・異邦人(イリビト)(原田マハ)
・やがて満ちてくる光の(梨木香歩)
・断絶(リン・マー)
・カッシアの物語 1(アリー・コンディ)
・カッシアの物語 2(アリー・コンディ)
・カッシアの物語 3(アリー・コンディ)
・華氏451度(レイ・ブラッドベリ)
・古都(川端康成)
・男も女もみんなフェミニストでなきゃ(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)
・イレーナ、永遠の地(マリア・V・スナイダー)
・炉辺の風おと(梨木香歩)
・もう死んでいる十二人の女たちと(パク・ソルメ)
・おもちゃ絵芳藤(谷津矢車)
・帝国のベッドルーム(ブレット・イーストン・エリス)
2021/10/30