りぼんの読書ノート

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カッシアの物語 1(アリー・コンディ)

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ロイス・ローリーの『ギヴァー4部作』に触発されて書かれた作品ということですが、本書においてはディストピア小説の雰囲気はあまり感じられません。温暖化によって人類の多くが死に絶えた後に再建された「ソサエティ」は、確かに高度な管理社会です。平和で秩序ある生活と引き換えとはいうものの、情報や芸術を制限し、結婚も職業も死ぬ年齢さえもがコントロールされている社会は、確かに忌むべきものかもしれません。しかし本書は、ラブロマンスの色彩が強すぎるのです。

 

本書の主人公はカッシアという17歳の少女。彼女の結婚相手がソサエティから示される「マッチ・バンケット」の場面から物語が始まります。選ばれたのは、ハンサムで快活で頭脳明晰で、常にリーダー的な存在である幼馴染のザンダーでした。彼もカッシアのことを愛しているようで、彼女も不満などありません。しかしひとつの手順の狂いが、彼女の心を揺るがしていくのです。

 

それは彼女に渡されたマイクロカードが示した男性がザンダーではなく、カイという別の少年であったこと。役人からは手違いだから忘れるようにと告げられたものの、カッシアは彼を意識し始めてしまいます。外縁州からやってきたカイが「逸脱者」と呼ばれる下層階級に属しており、禁断の詩編や文字を知る優秀な少年であるのに、辛い肉体労働を強いられていることを知ったカッシアは、次第に彼に惹かれるようになっていきます。そしてカイが外縁州の戦地に送られると聞いて、彼女は重要な決断をするのでした。

 

繊細で内向的なカッシアの独白で綴られる本書は、ディラン・トーマスやテニスンの詩が重要な役割を果たすこともあり、静謐な雰囲気に満ちています。カッシアが最後に見せる大胆な行動を強く印象付けるための仕掛けなのかもしれません。あまり好きなタイプの作品ではないのですが、冒険活劇の度合いが増していく第2巻以降で微妙な三角関係がどう動いていくのか、とりあえず読みきってしまいましょう。

 

2021/10