りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007-10-01から1ヶ月間の記事一覧

漁夫マルコの見た夢(塩野七生)

塩野さんの名前があったので借りてみましたが、よくわからない本でした。おそらく17世紀の、爛熟期のベネチアが舞台の、綺麗な絵本です。ほとんどストーリーはないのですが、内容は結構アダルトですので、どのような人をターゲットにした本なのか、謎です…

魔女の宅急便5(角野栄子)

この映画は中学生の時に見ました。今でも、ジブリの中で一番好きな作品です。ほうきで空を飛ぶなんて、例えばバイクに乗れるようなもの。それしかできない13歳の少女が、黒猫ジジと二人っきりで知らない街に来て落ち込んだり、友人(ジジ)と心が通わなく…

2/3の不在(ニコール・クラウス)

『ヒストリー・オブ・ラヴ』の著者の、デビュー小説です。あちらは、悲しい愛の歴史を記憶に刻み込んだ老人の物語でしたが、こちらは逆に、2/3の記憶を失った男性の物語。人は、愛の記憶なくして、誰かを愛することができるのでしょうか。 英文学の教授で…

ブロークバック・マウンテン(アニー・プルー)

100ページ足らずの薄い文庫本でした。もともと、ワイオミングを舞台にした短編集の一作品だったものが、映画化を機に、これだけで出版されたもののようです。 でも、物語の良し悪しは長さではありませんね。2人のカウボーイ(イニスとジャック)の男同士…

やってられない月曜日(柴田よしき)

「ワーキングガール・ウォーズ」の姉妹編という感じで宣伝されていますが、だいぶテイストは違います。あっちは、会社内の話は「背景部分」で、本題は休暇中の出来事なのに対し、こっちは会社生活そのものが主題。 森絵都さんの『永遠の出口』の感想で「思春…

本泥棒(マークース・ズーサック)

オーストラリアの若い作家によるナチス時代のドイツが舞台の物語。一般のドイツ人にもユダヤ人に対しても中立的な視点であの時代を描くことができたのは、外国人の著者だからなのかもしれません。 「死神」という中立の存在が語るのは、リーゼルという少女の…

海に帰る日(ジョン・バンヴィル)

少年時代をすごした海辺の町へと戻ってきた、老美術史家マックスの周囲には、「死」が満ち溢れているようです。現在には、近い将来訪れるであろう自らの死の予感。近い過去には、長年連れ添った最愛の妻アニタの病死。そして遠い過去にも、この海辺の町であ…

永遠の出口(森絵都)

「小さい頃、私は『永遠』という言葉にめっぽう弱い子供だった」とはじまる本書は、普通の少女である紀子の、10歳から18歳までの成長をたどる物語。 普通の少女ですから、普通のことが起こるのです。同級生とケンカをしたり仲直りをしたり、恐ろしい担任…

シャーロック・ホームズと賢者の石(五十嵐貴久)

世界一有名な探偵シャーロック・ホームズのパロディやパスティーシュは、オリジナルの物語の数よりも、はるかに多いそうです。オマージュ小説の名手である五十嵐さんも、本書の4編のパスティーシュでホームズワールドに参戦してくれました。^^ 「彼が死ん…

ヒストリー・オブ・ラブ(ニコール・クラウス)

荒削りではあっても、心に強く訴えかける小説というものがあります。ブロ友である葉桜さんのレビューで知った本書も、そんな一冊でした。 ナチスから逃れてポーランドを離れ、ニューヨークで錠前屋として細々と生計を立ててきた独り暮らしの80歳の老人、レ…

予定日はジミー・ペイジ(角田光代)

思いがけなく妊娠してしまい、1月9日(ジミー・ペイジの誕生日)が予定日と告げられた女性の、マタニティ日記。後書きを読むまで、これは実体験を題材にした小説で、角田さんもついに母親になったのか・・と思っていたのに、全くのフィクションなんですね…

灰色の輝ける贈り物(アリステア・マクラウド)

短編集『冬の犬』の作品より以前に書き表された、8編の短編集。寡作でなるマクラウドの小説を全て読んでしまいました。これ以上、彼の作品を読むことができないというのは、寂しいことです。 もちろん本書の8編も全て「珠玉」です。初期の短編を集めた本書…

この人と結婚するかも(中島たい子)

ゼーバルトを2冊続けた後は、30代女性の等身大感覚に戻りましょう。出会いの度に「この人と結婚するかもしれない」という予感にときめき、毎回毎回裏切られてきた、ちょっとイタイ女性の節ちゃんが主人公。 美大の学食で話しかけてきた、感じのいい男性。…

アウステルリッツ(W.G.ゼーバルト)

2冊続けて、ゼーバルトを読んでしまいました。『土星の輪』や『移民たち』と同様に多数の白黒写真を活用しながら、建築歴家であるアウステルリッツの不思議な人生が、偶然彼と出会って彼の博識ぶりに感嘆する男性によって語られていきます。 そもそもアウス…

移民たち(W.G.ゼーバルト)

色褪せた白黒写真と、覚束ない記憶を綴る文章の不思議なコラボレーション。記憶の海からランダムに浮かび上がってくる断片の寄せ集めのようなのに、全体を俯瞰するとひとつの形がおぼろげに現れてくるのです。 20世紀の前半に故郷を出てそれぞれ長年異郷で…

吉原手引草(松井今朝子)

直木賞受賞作というので期待して読みましたが、ちょっとがっかり。「知識とテクニックで書かれた小説」という印象を持ってしまったのです。 構成はよく出来ていると思うんですね。吉原一の花魁と言われた葛城に、いったい何が起こったのか。「数ヶ月前に起き…

オールド・エース(アニー・プルー)

『シッピングニュース』で、北の果てニューファンドランドの厳しい自然の中で生きる人々を描いた作者ですが、本書の舞台は、一転してオクラホマのパンハンドル地帯。そこは、かつては「No Man's Land」と呼ばれたこともあり、周辺のどの州からもリクエストさ…

戦争の法(佐藤亜紀)

佐藤さんが日本を舞台にして書いた、唯一の小説です。1975年に突如として日本から独立を宣言し、街にはソ連兵が駐留するようになった日本海に面したN県で、ゲリラ兵となった中学生の物語。 街はいきなり崩壊するのです。普段の生活では、普通の市民たち…

美しき傷(シャン・サ)

天安門事件で中国を出てフランスに移住し、フランス語で小説を書くシャン・サさんが、中国史上、稀代の悪女として名高い則天武后の心情を再構築した『女帝』に次いで描いてみせたのは、アレクサンドル大王でした。 女性のような美少年だったアレクサンドロス…

国芳一門浮世絵草紙 侠風むすめ(河治和香)

「侠風」と書いて「きゃんふう」と読ませるタイトルは、主人公の娘が気が強くて跳ねっかえりなのに純情な「おきゃん」であることをあらわしてしています。 主人公は、人気の浮世絵師・歌川国芳の娘・登鯉(とり)。国芳というと、巨大な骸骨が襲い掛かってく…

均ちゃんの失踪(中島京子)

読み始めてから、この本のタイトルが「坊ちゃんの失踪」ではないことに気づきました(笑)。『FUTON』に『イトウの恋』と、過去の名作から発想を得た作品のある著者の本ですので、勝手に漱石へのオマージュかと思ってしまったようです。^^; 「均ちゃ…

オクシタニア(佐藤賢一)

1209年の十字軍結成から1244年のモンセギュール陥落まで、35年の長きに渡る「アルビジョワ十字軍」の歴史を、信仰と信念と愛情の物語として描ききった渾身の一作です。同じカタリ派弾圧をテーマにした帚木蓬生さんの『聖灰の暗号』を読んだのを機…

血と暴力の国(コーマック・マッカーシー)

90年代に著された記念碑的な国境三部作(『すべての美しい馬』、『越境』、『平原の町』)以来となるマッカーシーさんの新著は、なんと1980年のアメリカが舞台のクライム・ノヴェルでした。 ヴェトナム帰還兵のモスが荒野で発見した自動車には、死体と…

黒の過程(マルグリット・ユルスナール)

中世から近世へと大きく移り変わりつつあった16世紀ヨーロッパでは、宗教と科学がせめぎ合う中で、内乱や革命や異端弾圧の嵐が吹き荒れました。同時代のあらゆる知を追及した架空の錬金術師ゼノンの生涯は、既成思想が崩壊する戦後の時代を生きたユルスナ…

2007/9 ミノタウロス(佐藤亜紀)

月1冊のペースで読んでいた『世界の歴史シリーズ(J.M.ロバーツ)』を、最終10巻まで読み終えました。「現代に対する影響」の視点から編纂されたこのシリーズは、歴史は単なる学問ではなく、今この瞬間に起きている問題を理解するためのものであるこ…