りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-01-01から1年間の記事一覧

2023 My Best Books

2023年に読んだ本は288作品。平均よりも少し多かったかな。じっくり腰を据えて読むべき重厚な作品から、軽妙な作品まで、幅広く読んだ印象です。ともあれ、今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみましょう。 ・長編小説部門(海外):…

2023/12 Best 3

1.鏡と光 上下(ヒラリー・マンテル) ヘンリー8世の寵臣として、イングランドの宗教改革や絶対王政の確立に大きく貢献したトマス・クロムウェルの生涯について、正面から向き合った3部作の最終巻。アン・ブーリンの登場とトマス・モアの処刑までを描い…

わたしは女の子だから(角田光代/訳)

「プラン」という国際NGO団体があります。その目的は「子どもの権利が守られ、女の子が差別されない公正な社会を実現する」ことなのですが、2000年以上も変わらなかった習慣を、変えていくことは可能なのでしょうか。「プラン」から依頼を受けて開発…

五月 その他の短篇(アリ・スミス)

ブリグジット前後のイギリスを舞台に思いがけない人々の結びつきを描いた「四季4部作」や、2つのパートによる2種類のバージョンからなる『両方になる』の著者による短編集です。墓場に始まり窓の破壊で終わる12の短編は1年間の12カ月に対応しており…

過去を売る男(ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ)

1975年の独立後27年間も続いた内戦の間、部屋に引き籠って暮らした女性を中心に据えた『忘却についての一般論』に続いて邦訳された本書もまた、記憶をめぐる不思議な物語です。 語り手は一匹のヤモリ。どうやら前世は人間だった過去を持っているようで…

九紋龍(今村翔吾)

貧しい新庄藩お抱えの江戸火消組を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の3作目には、新たな敵が登場してきます。火事を起こしてその隙に家人皆殺しの押し込み強盗を行う、残虐非道な強盗集団の千羽一家が、京都西町奉行となった長谷川平蔵に追われて、上方から江…

百寺巡礼 第5巻 関東・信州(五木寛之)

大阪勤務時に読み始めたシリーズですので、これまで奈良・京都をはじめとする関西の寺院についての巻を中心に読んできたのですが、関東にも歴史ある寺院は数多くあるのです。「久遠寺」を除いては訪れたことがある寺院ばかりです、 「浅草寺 熱と光と闇を包…

帝都上野のトリックスタア(徳永圭)

この著者の作品を読むのは、「配達」という行為を通じて人々の心の繋がりを描いた『片桐酒店の副業』に次いで2冊めです。こちらは大正時代の帝都東京に暗躍する元詐欺師たちの痛快な冒険活劇であり、かなり異なる雰囲気の作品です。 突然姿を消した最愛の姉…

あなたの教室(レティシア・コロンバニ)

運命に抗って自分の意思を貫くために勇気を振り絞る、3大陸の3人の女性の物語が交差する『三つ編み』の使命篇ともいえる作品です。一人娘に教育を受けさせるために南部を目指してインド縦断の旅に出た不可触民の女性スミタの「その後」が、本書に関わって…

物語スペインの歴史 海洋帝国の黄金時代(岩根圀和)

物語形式で各国の歴史を概観する中公文庫のシリーズは、読みやすくて重宝しています。先に『物語スペインの歴史 人物篇』を読んだ際に本編が未読であったことに気付いて、急ぎ読んでみました。8世紀のスペイン・ウマイヤ朝成立から、15世紀に完了するレコ…

鏡と光 下(ヒラリー・マンテル)

ヘンリー8世の寵愛を得て秘書官と国璽詔書を兼任し、イングランド行政の中心人物として目覚ましい改革を推進したトマス・クロムウェルは、どのようにして破滅に至ったのでしょう。最終的には国王の寵愛を失ったことが全てなのですが、著者はそこに至る道筋…

鏡と光 上(ヒラリー・マンテル)

これまで脇役か敵役としてしか描かれてこなかったヘンリー8世の寵臣・トマス・クロムウェルの生涯について、正面から向き合った3部作の最終巻になります。アン・ブーリンの登場とトマス・モアの処刑までを描いた第1部『ウルフ・ホール』と、アン・ブーリ…

浮世絵の解剖図鑑(牧野健太郎)

浮世絵解読のプロによる「秘密の暗号を探る謎解き本」ですが、内容は難しいものではありません。江戸の庶民であればすぐにわかるはずの地名、名所、風景、美女などを解説してくれる作品です。それでも現代の東京しか知らない者にとっては、やはり「謎」は多…

終わりのない日々(セバスチャン・バリー)

19世紀半ばのジャガイモ飢饉で家族を失い、命からがらアメリカに渡ってきたトマス少年は、同年代の放浪児ジョン・コールと運命の出会いを果たします。まだ幼さの残る2人の少年は、ミズーリの鉱山町にある酒場に雇われ、女装をして鉱夫たちとダンスをする…

商う狼 江戸商人杉本茂十郎(永井紗耶子)

文化文政期に活躍した商人・杉本茂十郎を主人公に据えるとは、かなり思い切ったテーマです。しかし著者は、悪徳商人として描かれても仕方ない経歴を持つ人物を、時代を超えるエネルギーを有したヒーローとして描き出しました。田沼意次の積極財政策を再評価…

物語スペインの歴史 人物篇(岩根圀和)

『物語スペインの歴史』の姉妹編です・・と書き始めて、本編が未読であったことに気付きました。そちらも読んでおかないといけませんね。ともあれ本書では、ほとんど戦争に関わる本史では欠落してしまった、「スペインの大地に花開いた中世以来の芳醇な文化…

SGU警視庁特別銃装班(冲方丁)

著者が描き出す近未来の東京は、まるで「マルドゥック・シティ」や「シュピーゲル・シリーズ」のミリオポリスのよう。どうやら銃の蔓延のみならず、法執行者の権限を著しく制限したまま犯罪者の人権を過度に擁護するどころか、世直しの英雄と持ち上げる風潮…

ミシンの見る夢(ビアンカ・ピッツォルノ)

19世紀末のイタリア。コレラの流行で大家族を失い、祖母に育てられた貧しい少女が「お針子」として身を立てていきます。既製服の流行によって消滅するまで、日雇いの「お針子」はごく普通の存在であり、著者は刺繡を教えてくれた祖母を思い出しながら本書…

ミカンの味(チョ・ナムジュ)

『82年生まれ、キム・ジヨン』によって韓国フェミニズム文学の旗手となった著者が、新型コロナ禍の最中である2020年に書いた最新長編です。 主人公は中学校の映画部で親しくなった、ソウル郊外の新興住宅地に暮らす4人の少女たち。全てに平凡なことに…

黄色い家(川上未映子)

2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つけます。60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていました。花は、長らく忘却していた20年前の黄美子との不思議な同居生活を思い出します。それは黄美子と3人の少…

イクサガミ 地(今村翔吾)

西南戦争直後の明治11年。大金獲得の餌で京に集められた剣客たちが、最後の9人になるまで互いに殺し合いながら東京へと向かうデスゲームには、どのような裏があったのでしょう。そしてその中で進行するもうひとつのドラマ「京八流の継承者争い」はどのよ…

青瓜不動 三島屋変調百物語九之続(宮部みゆき)

シリーズ第8巻『よって件のごとし』の前に第9巻である本書を読んでしまいましたが、個別の物語が中心ですので、全体の進展に多少前後が出ても問題ない・・と思いたいものです。 「青瓜不動」 従妹のおちかの出産まで「百物語」の封印を決意していた富次郎…

夜哭烏(今村翔吾)

後に『塞王の楯』で直木賞を受賞する著者のデビューシリーズ「羽州ぼど鳶組」の第2弾です。第1作『火喰鳥』では、かつて人気火消であったものの故合って浪人暮らしをしていた松永源吾が、金も人もない出羽新庄藩の火消組の再建を依頼されてメンバー集めか…

2023/11 Best 3

1.アーダの空間(シャロン・ドデュア・オトゥ) 15世紀のアフリカ西海岸の村で幼児を失って悲嘆に暮れる母。19世紀のロンドンでディケンズと逢瀬を重ねる伯爵夫人。1945年のポーランドで強制収容所の慰安婦となった女性。そして現代のベルリンで差…

待ち合わせ(クリスチャン・オステール)

直前に読んだ『口ひげを剃る男』もそうでしたが、妄想に支配されている男の心情や行動を描くことにかけては、フランス文学は群を抜いているように思えます。 主人公は3か月前に恋人のクレマンスを別れたものの未練たっぷりの男。彼女と縒りを戻すために、「…

口ひげを剃る男(エマニュエル・カレール)

「ぼく、口ひげ剃っちゃおうかな?」。ふとした思い付きで10年間貯えていた口ひげを剃り落とした男が、悪夢的な悲劇に襲われてしまいます。はじめに相談したはずの妻のアニエスも、その晩夕食を共にした友人夫妻も、男に口ひげがなくなったことに全く触れ…

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢(ジョイス・キャロル・オーツ)

1938年にニューヨークで生まれた著者は、短編の名手であるだけでなく、ミステリ、ホラー、ファンタジー、ノンフィクション、児童書など、ジャンルを超えた作品を数多く発表しており、近年はノーベル文学賞候補としても名前があがっているとのこと。ホラ…

迷宮の月(安部龍太郎)

白村江の戦いで日本と唐の国交が断絶してから約40年の間、遣唐使は断絶していたそうです。しかし藤原京を造営し、大宝律令を制定して中央集権国家への道を歩もうとしていた日本には、先進国である唐の制度や文化の輸入が不可欠でした。時の権力者であった…

東福門院和子の涙 下(宮尾登美子)

皇室の外戚となるという家康の野望を実現するために御水尾天皇へ入内させられた、秀忠の末子・和子の御所での生活はスムーズには始まりませんでした。宮廷の女たちの巧妙な妨害によって、床入りどころか夫である帝との会話すらなかなかできずにいたのです。…

東福門院和子の涙 上(宮尾登美子)

かつて著者は「歴史ものは苦手」と語っていたとのことですが、本書と『天璋院篤姫』によって、それまでの男性作家による歴史小説とは異なるジャンルを打ち立てたように思えます。この2冊はどちらも女性の視点から歴史の大きな流れと自分自身の生き方を交差…