りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

2017/11 騎士団長殺し(村上春樹)

毎回同じストーリーとか、伏線が回収されないとか、不自然さが目立つとか、ジャンル小説に敬意が足りないなどの批判もあるのですが、やはり村上春樹ワールドは素晴らしいのです。ついでに「村上春樹のエピゴーネン」とも言われる伊坂幸太郎さんの作品をまと…

形見函と王妃の時計(アレン・カーズワイル)

『驚異の発明家(エンヂニア)の形見函』の続編ですが、「ある人物の生涯をコラージュした形見函」という概念は踏襲しているものの、内容的には全く別の作品です。 ニューヨーク公共図書館に勤める20代の司書アレクサンダーが、ヘンリー・ジェイムス・ジェ…

卵を産めない郭公(ジョン・ニコルズ)

1960年代、米国東部の名門カレッジで出会った男女のラブストーリー。新訳を著した村上春樹さんによると、本書が出版された1965年というのは「エアポケットの時代」だそうです。1950年代のサリンジャーのような求道性は薄れ、その後の反戦思想や…

母の記憶に(ケン・リュウ)

『紙の動物園』でアジア的SFの新境地を開いた著者の、第2短編集です。16編が収録されていますが、全部紹介できるでしょうか。先に言っておくと、「草を結びて環を銜えん」、「カサンドラ」、「訴訟師と猿の王」、「万味調和-軍神関羽のアメリカでの物語…

泣き虫弱虫諸葛孔明(第伍部)酒見賢一

2004年11月の『第壱部』刊行から約13年。ついに「酒見三国志」が完結しました。ヤカラのような劉備軍団。何でも欲しがる曹操。広島ヤクザのような孫権一家。そこに白羽扇を持って登場した魔性の変質者・諸葛孔明。そして正史「三国志」や「三国志演…

静かな雨(宮下奈都)

『羊と鋼の森』で2016年度の本屋大賞を受賞した著者の「幻のデビュー作」です。 クリスマスの日に失業したユキスケは、偶然見つけたパチンコ屋の裏のたいやき屋の女性「こよみさん」と知り合います。きっかけは、彼女が作るたいやきが、とても美味しかっ…

ギリシア人の物語2(塩野七生)

『第1巻』で描かれたペルシア戦役の後、アテネは黄金時代を迎えます。その時代をほぼひとりで支えたのが、不世出の指導者であるペリクレス。民主主義を築き上げたアテネで、民主政がもっともよく機能していたと言われる33年間が、たったひとりの指導者に…

キャプテンサンダーボルト(伊坂幸太郎、阿部和重)

ともに大江健三郎ファンで、蔵王を挟んで隣り合う宮城県と山形県出身である2人の作家が、完全合作で著した作品です。2人で協力し合って「上空を遮っている巨大なUFOのような村上春樹に対してたたかう」というのですが、共著の試みは成功しているのでし…

陽気なギャングは三つ数えろ(伊坂幸太郎)

伊坂さんの作品を連続して読んでいるのは、彼の存在をすっかり忘れていたからなのです。『「騎士団長殺し」メッタ斬り!』で、村上春樹のエピゴーネンとして唯一褒められていたので、思い出した次第です。 本書は『陽気なギャングが地球を回す』と『陽気なギ…

サブマリン(伊坂幸太郎)

『チルドレン』から12年も経っていたのですね。破天荒な家裁調査官の陣内が再登場。語り手は実直な部下の武藤です。 陣内のキャラについては、武藤の言葉を引用しておきましょう。「自信満々で何でもできるような態度で、はた迷惑で、負けず嫌いで、変なこ…

火星に住むつもりかい?(伊坂幸太郎)

容疑者を拷問にかけて自白を強要し、ギロチンで公開処刑するという「平和警察制度」が施行されている未来社会。住民の相互監視や、密告や、冤罪がまかり通る「現代の魔女狩り」であることは周知であるものの、この制度によって犯罪件数が激減していることも…

至福の烙印(クラウス・メルツ)

3編の中編からなる作品集ですが、冒頭の作品には「本来なら長編小説」という説明書きがついています。確かに断章形式で綴られている3作品とも、長編となっていてもおかしくない内容を含んでいるのです。いったん書き表した長編小説に対して、推敲に推敲を…

紅霞後宮物語 第3幕(雪村花菜)

『第1幕』と『第2幕』までは意識されていなかった本格的なシリーズ化は、本書の執筆時点では決まっていたのでしょう。これまでの「読み切り」作品と異なり、本巻の結末は「続編に続く」含みが持たされています。 不世出の軍人と誉れ高い関小玉が、とんでも…

紅霞後宮物語 第2幕(雪村花菜)

軍人皇后の関小玉を主人等とする『紅霞後宮物語』が、シリーズ化されました。前作で、女性の嫉妬と欲望が渦巻く後宮の闇を一刀両断にした一方で、処刑した高貴妃の遺児・鴻に愛情を注いでいる小玉の前に、新たな陰謀が浮上します。 それは「先帝の遺児」の出…

天国でまた会おう(ピエール・ルメートル)

『その女アレックス』で一躍ベストセラー作家となった著者の新作は、第1次大戦後のフランスを舞台にしたビカレスク・ロマンでした。 第1次大戦の終了間近の西部戦線。終戦前の戦功を焦るプラデル中尉の不正を目にしたアルベールは、中尉によって生き埋めに…

みやこさわぎ(西條奈加)

元神楽坂芸者で気が強い祖母・お蔦さんと2人で暮らしている少年・望の成長を見守りながら、ご近所の謎を解決していくミステリ・シリーズの第3作です。本作から、望は高校生になりました。 「四月のサンタクロース」 幼い娘の真心ちゃんが心を痛めているの…

恋糸ほぐし(田牧大和)

絹製のつまみ細工で作る花簪職人の忠吉は、25歳にして職場も住まいも失くしてしまいます。親方のお嬢さんから寄せられていた好意に応える度胸もないまま、親方が急死。お嬢さんと結ばれて跡を継いだ兄弟子から疎まれて、追い出されてしまったのです。 身寄…

亡き王女のためのパヴァーヌ(パク・ミンギュ)

全人類から「アチャー」されている苛められっ子が、人類をアンインストールする選択権を賭けて卓球をするという『ピンポン』の著者が次に書いた作品は、意外にも純愛ストーリーでした。 現実世界に馴染めない作家志望の19歳の少年と、不幸な少女の運命の出…

Q&A(恩田陸)

2002年2月11日午後2時過ぎ、都内郊外の大型商業施設において発生した重大死傷事故の原因は何だったのでしょう。関係者がインタビュアーの質問に答える「Q&A」だけで進行する物語ですが、単なる謎解きではありません。不思議な世界に着地していく…

村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!(豊崎由美、大森望)

『文学賞メッタ斬り』の名コンビが、村上春樹さんの新作に挑んだ作品です。こんな企画が成り立つほど「現象化」しているわけですが、本書の冒頭で紹介された事例はもっとすごい。何しろ新作のタイトルだけが公表されていた時点で、どんな作品なのかを推理し…

驚異の発明家の形見函(アレン・カーズワイル)

1983年、執筆者がパリの骨董品オークションで入手したがらくたの詰まった函は、産業革命以前のフランスで、自動人形の開発に心血をそそいだ天才発明家の「形見函」でした。10の仕切りのなかには、それぞれ、広口壜、鸚鵡貝、編笠茸、木偶人形、金言、…

まく子(西加奈子)

もともとは『サラバ!』の前に、ジュブナイルとして書き始めた作品だったそうです。直木賞受賞後にあらためて書き直した所、平易な表現を用いながらも「かつて子どもだった大人のほうが楽しめる、びっくりできる小説になった」とのことです。 「まく子」とは…

猿の見る夢(桐野夏生)

著者が「これまでで一番愛おしい男を描いた」という主人公は、59歳の薄井正明。銀行からの出向先で取締役まで上り詰め、10年来の愛人との関係を保ち続けるために、65歳まで働ける常務のポジションを狙っているという、欲望にまみれた初老の男性です。 …

騎士団長殺し(村上春樹)

主人公の「私」は妻に去られた肖像画家であり、施設に入った高齢の日本画家のアトリエであった、小田原郊外の山中にある家に住まわせてもらいながら、自分がほんとうに描きたい絵は何か考えているところ。しかし彼の孤独で静謐な生活は、謎めいた富豪である…

氷の轍(桜木紫乃)

「シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、シンジツ一人ハ堪ヘガタシ」という北原白秋の詩「他ト我」の意味が最後に明かされる、TVドラマのために書き下ろされた作品です。もっとも原作とドラマでは、物語の展開が少々違っているようです。 釧路市の海岸で発見された男性…

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン(ピーター・トライアス)

21世紀版の『高い城の男』ともいうべき、歴史改変SFです。第二次世界大戦中のカリフォルニア日本人強制収容所で静かに始まった物語は、意外な展開を迎えます。日章旗をつけたジープが乗り込んできて、戦争に勝利した日本軍が日系人を解放するというので…