りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

キャプテンサンダーボルト(伊坂幸太郎、阿部和重)

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ともに大江健三郎ファンで、蔵王を挟んで隣り合う宮城県山形県出身である2人の作家が、完全合作で著した作品です。2人で協力し合って「上空を遮っている巨大なUFOのような村上春樹に対してたたかう」というのですが、共著の試みは成功しているのでしょうか。

主人公は、男性アイドルグループのメンバーを思わせる名前の相葉と井ノ原。山形の少年野球チームでエースとキャプテンだった2人は、高校時代の事件で仲違いした後は会うこともなく、互いにしょぼい30歳前の男になっています。山形に住み続けている相葉は後輩の借金を背負い、仙台に引っ越した井ノ原は難病の息子の治療費のために、猛烈に金を必要なことも共通点。怪しげな儲け話に手を出して「銀髪の怪人」に追われ、仙台に逃げ込んだ相葉は井ノ原と運命の邂逅を果たすのですが・・。

2人が巻き込まれた陰謀とは、蔵王の火口湖「お釜」に発して日本中に流行している「村上病」と関係しているようです。東京大空襲の夜になぜ3機のB29は蔵王に墜落したのか。蔵王で撮影されたヒーロ戦隊映画「鳴神戦隊サンダーボルト」の劇場版はなぜ上映中止になったのか。村上病の存在を疑った厚生省の技官はなぜ急死してしまったのか。

2人の主人公の逃亡劇に、父親の不審死の謎を追う厚生省技官の娘・桃沢瞳が絡み、やがて世界的な陰謀の存在が明らかになっていきます。人類の未来がかかったカウントダウンを、2人は止めることができるのでしょうか。そして2人は「人生の大逆転」を果たすことができるのでしょうか。

伊坂さんが描いた全体のプロットに基づいて、各章を2人で交互に執筆したとのこと。そのせいで、全体的に「伊坂色」が強い作品になっているようです。デテイルの書き込みが詳細なのは阿部さんの影響なのでしょう。本書が500ページを超える大作になってしまったのは、そのせいなのでしょう。テンポの良い「伊坂ワールド」の長所が消されてしまったようで、共著の試みは成功しているとは言い難いと思います。シンセミアの冗長さに辟易して、阿部さんの作品には手を出していなかったことを思い出しました。

2017/11